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ON THE STREET BURGER
VOL.016
ラストは風のように~Lighthouse [神奈川・佐島] 前編
ラストは風のように~Lighthouse [神奈川・佐島] 前編

夏休み特別企画!
大増量の前後2編でお届けする拡大版は
夏の湘南 逗子・葉山、"妖し"のドライヴ......


※記事中に登場する店の名称、営業内容、場所等は全て事実に基づく正しい情報ですが、登場する人物の行動については全てフィクションです。

事の始まり

APIOジムニーTS7、通称「ハンバーガー号」

7月半ば。寝苦しい晩だった。午前0時を過ぎた頃、ふと電話が鳴った。留守電設定、無し。いつまでも切れないので出てみると、

 「……」

返事がない。あれこれ呼び掛けてみたが、無音が続き、やがて切れた。W杯も終わり、今日は早く寝ようと期していたところへ迷惑千万。冷たい飲み物でも飲もうかとキチンに向かいかけたところ……また鳴った。今度はこちらが名乗るより先に、微かな声が何か言っている。だがはっきりとは聞こえない。

 「あの、お声が遠いようなのですが、もういち……」
 「……佐島……ライトハウス……きょう……」

そう言い残して、電話はフツと切れた。

調べてみると、横須賀市・佐島(さじま)の「Lighthouse(ライトハウス)」はハンバーガーを出す軽食堂であることが判った。我が職務に照らして解すれば、これは"タレコミ"の電話である。にしてもこんな時間に。しかも番号の通知も無い。声は女性のものに思えた。


「きょう……」の後にも何か言っていたようだが、聞き取れなかった。それがもし「待ってる」だったらどうしよう。しかし、きょうの何時のことだかも判らないのだ。そもそも待たれる義理も無いので、無視したって構わないのだが、それでもミョウに気になり、夜が明け、世の中が動き出すのを待ってから、私はついに「ハンバーガー号」を呼び出した。

緊急出動、佐島へ

APIOジムニーコンプリートカーTS7、通称「ハンバーガー号」。普段は都内某所に待機しているのを、こうした"有事"にのみ手配して乗っている。


私からの一報を受けて、GAOさんと坂上さん、二人揃って駆けつけてくれた。別に"心配して"くれているのでは無い。二人して『ON THE ROAD MAGAZINE』の取材中だったところに呼び出しが掛かったので、後の予定をキャンセルして"やむなく"来てくれたのだ。と言うくらい、私の呼び出しサインはこの場合何よりも優先される。ある種の「エマージェンシーコール」と言ってよい。


二人は明らかに迷惑顔だった。が、行く先は湘南・葉山だと告げると幾分乗り気になり、久しく行っていないからと、わざわざ海岸沿いの道を選んで走った。「茅ヶ崎生まれの僕にとっては、岩場があって、水もきれいで、遊べる海――それが葉山だ」と、後部座席から身を乗り出して、坂上さんが熱く自説を語る。


湘南FMがボビー・コールドウェル、"Love Won't Wait"を流している。ゆるやかにうねる134号線を境に、右は海、左は切り立った丘陵がしばらく続く。米国加州、マリブからサンタモニカへ向かう途中の風景に似ていると思った。


と、ちょうどその時、ハンバーガー号は「MARLOWE(マーロウ)」の前を過ぎた。LAの私立探偵の名を冠したカフェ……極めて"暗示的"だ。間違いない。「ライトハウス」へ行けば、きっと"何か"が待っているに違いない。それは鬼か蛇か……。


音楽はこの上なくさわやか。しかし空も海も白く霞んで、前途同様、すっきりしない一日だった。

マリーナ向かいのバイカースポット

砂利を踏みながら店へ入ると、店の中も砂利だった。ここは湘南サニーサイドマリーナ向かい。広い駐車場の一角に海上コンテナを2つ、間にキチントレーラーを1つ置いて、上を屋根で覆っている。それが「ライトハウス」だ。

砂利敷きの地面に直に机椅子を並べた店内を見回したが、声の主と思われる女性は居らず、代わりに、オーナーと名乗る人物が声を掛けて来た。市来(いちき)さんという屈強な体格のその男性は、よく通る低い声で、自身の店について語り出した。


店を始めたのは2009年6月。過去に二度、すぐこの近所で移転を繰り返し、今のこの場所は三代目の店舗に当たる。最初の店は目の前に海と富士山を望む絶好のロケーションだった。


当初は名前の無い店だったが、夜、電柱にライトを取り付けて営業していたことから「灯台」と命名。ハンバーガーだけだと毎日は食べてもらえないので、ラーメン、焼きそば、カレー、丼ものなども途中より始め、普段は地元の人やマリーナの客が利用、週末には東京・横浜からツーリングで訪れるバイカーたちの中継所として人気を集めている。


学生時代、フレンチレストランでアルバイトをして、僅か2年で暇な時間帯限定ながらもシェフまで任された市来さん。「BBQやるぞー!」と一声掛ければ、遠く仙台や大阪から駆けつける友人がいるほどに、自分の作る料理に「ファン」がいることにふと気付き、ならば実際にお金を戴いて料理を作り、出してみよう。店の場所は"僻地"でよいから、それでも人が来てくれれば――と始めたのがコノ店である。

ケチャップ・マスタードなし

湘南サニーサイドマリーナの真向い

スティーヴィー・ワンダー"Do I Do"の陽気なイントロが店内に鳴りだした。店の隅の薪ストーブに、雲間を突いた強い夏の日差しがいつの間にか落ち込んでいる。


ハンバーガーは全5品。「ステーキをみじん切りにしたぐらい」の超粗挽きUSビーフに、とっておきの牛脂、塩胡椒、シーズニングなどを練り込んだ200gパティを挟んだ「スタンダード」は880円。各種スパイスでパティに味付けを施した「四川中華」「インドカレー」「柚子胡椒」という名の変り種が3品。「1ポンドバーガー」はその名の如く、450gパティを挟んだ巨塊。

幾分硬めな焼き加減ながら、直火で焼いた焦げた肉のニオイがプンと芳ばしく漂う。大ぶりなバンズは地元のパン店に依頼した特製。オリーブオイルを混ぜて作った、これも硬めな食感の生地だ。裏には何も塗っておらず、また、ソースの類も一切使っていない。コノ店はケチャップ・マスタードを置いていない。欲しいと言われると、「肉に味がしっかり付いているので」と言って、出さない。客は大概そのまま食べ切る。米国コネチカットの"Louis' Lunch"のような店だ。


野菜は上にオニオンのスライス、下にレタス。トマトは無し。トッピングメニューはチーズとパイナップルのみ。付け合わせが面白く、ピクルスはバルサミコベースのソースをかけたもの、ポテトは生をオリーブオイルとガーリックで炒めたもの。


ソースの味で誤魔化さない、ストレートに「肉を食べさせたい」バーガー。ボリュームがあって、コノ店の雰囲気にふさわしいものに感じた。オーナーに似て"野趣溢れる"一品と言うべきか。それが最も近い表現に思う。

逗子・葉山のハイライフ

週末には東京・横浜からツーリングで訪れるバイカースポットとしても有名

店長金子さんが「手紙を預かっている」と言い出したのは、ハンバーガーを食べ終えた頃だった。(ついに来たか……)と、思わず身構えたが、しかし手紙の相手は私でなく、GAOさんだった。正しくレターセットにしたためたその"ラヴレター"は、近くに住んでいるというGAOさんの大先輩に当たる人物が宛てたものだった。


(なんだ、自分じゃないのか……)と、その話で盛り上がる座の片隅で独り落胆していると、それまで離れた席で静かに食事していた客が、ふと立ち上がり、こちらへ向かって来る。名前を呼ぶので、そうだと答えると、彼は私にこんなメモを見せた。

 ≪国際村入口、バイクショップ≫

"か細い"字でそう書いてある。どうしたのか訊くと、その青年は、自分は米軍基地に務める妻の仕事の関係で、5年ほど前から逗子・ハイランドの近くに住んでいる。妻の職場は横須賀市内だが、自分は都内。「通勤が大変ではないか?」と訊くと、正味1時間半かかるが、それでも逗子から始発に座れるので、楽だ――と彼。今日は休みで、午前中、趣味のパドルボートで汗を流した後、ここへ寄った。よく休日にハンバーガーを食べに来るのだ、と言う――。


これこそ「葉山」と聞いて誰もが思い浮かべる「ハイライフ」だ。通勤時間を苦にせず、駅からバスに揺られて高台に住まい、海に遊び、休日を楽しむ。湘南を謳歌する――。彼こそ湘南ライフの、まさに模範のような人物だった。この日出会った人々の中で唯一彼のみに、湘南の海風のような一服の涼を覚えて、怪事件の束の間、ほっと心安らいだ。

四人目の客

最初の店は目の前に海と富士山を望む絶好のロケーション

そんなことはどうでもよい――。ハイライフの青年に続きを促すと、先ほどまでキチンにいた筈の店長が現れて、こう続けた。

 「実は……昨晩店を閉めた後、一人で片付けていると、掛かって来たんです……電話が」
 「二度じゃありません? 一度目は無言で――」
 「そうです! その通りで」

それで、"か細い"声で、今日訪ねてくるこんな客にこう伝えろと、先の内容を言って、切れた。だから"か細い"字でそれを書き取ったのは、店長である。

 「いつもより遅くなった晩に限ってそんな電話で。もうすっかり怖くなりまして、昨夜は一睡も出来ませんでしたよ。それで、今日来たお客さんに片っ端から声を掛けて……」
 「僕は四人目の客だそうです」

と一服の涼の青年。金子店長の只ならぬ様子を見て、助力を申し出たのだという。


昨夜の電話はやはり0時過ぎにあったというから、同じ者の仕業と見てよい。とんだ災難に巻き込まれた二人に厚く礼を述べ、次は「国際村入口のバイクショップ」へ向かおうと、GAO・坂上両氏を振り返ると、ちょうど市来オーナーが「ウチの店へ来いよ、来いよ」としきりに誘っているところだった。二人もその気らしく、私の言い分は到底通りそうにない。ひとまず黙って着いて行くほか無さそうだ。砂利を鳴らして店を後にするハンバーガー号のカーステレオからは、ハワイのグループ、シーウィンドの"Follow Your Road"が静かに流れていた。


< 後編へつづく >

Lighthouse [神奈川・佐島]

― shop data ―
所在地: 神奈川県横須賀市芦名1-17-8
アクセス: 横須賀横須賀道路・横須賀ICより坂本芦名線経由7km
駐車場: あり
TEL: 090-7243-3033
URL: http://ameblo.jp/lighthouse0602/
オープン: 2009年6月2日
営業時間: 11:30~23:00
定休日: 火曜日(要確認)

葉山の海とジムニー
コンテナとトレーラーを囲む小屋は、オーナー市来さん自らわずか二日半で造り上げた
ハンバーガーからラーメンまで、今や広範な守備範囲を誇る店長金子さん
ハンバーガー号は市来オーナーの四駆屋「Quadruped」へと向かった