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ON THE STREET BURGER
VOL.017
ラストは風のように~Lighthouse [神奈川・佐島] 後編
ラストは風のように~Lighthouse [神奈川・佐島] 後編

夏休み特別企画!
前後編でお届けする拡大版!
ついに電話の謎が解き明かされる......


※記事中に登場する店の名称、営業内容、場所等は全て事実に基づく正しい情報ですが、登場する人物の行動については全てフィクションです。

四足獣

1988年創業の市来さんの店、クアドロペット。居並ぶカスタムカーの姿はまさに四足獣

佐島から20分ちょっと。三浦半島も内陸に入り込んだ北久里浜駅の近くに、ライトハウスのオーナー・市来さんの本業である四駆屋「Quadruped Customs(クアドロペット)」はある。


"quad"は英語で「4」。イタリア語なら"quattro"。"ped"とは足の意。つまり4つの足。四つ足。四肢を持つ動物全般を意味する。四足獣とはなるほど、前後四輪ぶっといタイアを履いて、大地を噛むように佇立するコノ店のクルマにふさわしい言葉だと思った。あのカマロまでがバギー仕様になって車高が上がっている。そのイカツイ面々の間に、我らがハンバーガー号は小さくなって収まった。

上は象色のフォード・ブロンコと砂色のフォード・レンジャー。下は1999年式カマロバギー

それにしてもイカツイ。そしてゴツイ。スタッフも肩の辺りの盛り上がった巨漢揃い。敷地の角、部品取りの車が投げてある一角などは、映画のセットのような、絵になる荒れ様だ。


創業は1988年。今年で26年。それこそ四本の足を一歩一歩しっかと地につけ、歩んできたような凄味がある。店の中がまたスゴイ。市松模様のフロアの上に、ゴミからタイアから、応接セットからバイクから、あらゆるものが無造作に投げてある。だが居心地の悪さを感じないのは、オーナーが好きで、心から楽しんでやっている店であり、空間であるからだろう。


「帰りについ遠回りしたくなる車」が造りたいと市来さん。また「ここまでいじっていながら、これほど運転のクセのない車も無いだろう」とも。後でGAOさんが「派手に見えて、やっていることは基本に忠実な、実に正統なカスタム」と教えてくれた。

野獣がノドを鳴らすが如き声で続く市来さんの話に聞き惚れて、GAO・坂上両氏は眼を爛々と輝かせ、こちらまで野獣のようになりかけている。これではテコでもジャッキでもとても動きそうにない。と、そこへ市来さんの方から、さっきのメモの一件について触れてくれたので、それを潮に、バイク屋のおよその場所を訊いて、店を辞した。


四つ足の獣……またも"暗示"めいたものを感じながら、凄まじい引力を放つその一大基地を後にし、衣笠のインターに危うくハンドルを切りかけたGAOさんをどうにか留めて、バイクショップへ向かってもらうようお願いした。奇しくもラジオからは"Call On Me"、パトリース・ラッシェン。

バイクの館

看板のないバイクショップ「MOTOGITA」。出窓の多い建物の一階部分全てがガレージに

湘南国際村は、三浦半島の背骨を成す山がちな地形の、中でも見晴らしの好い高台にある研究・会議施設である。そこから内陸側に坂を下り切った麓に、その店はあった。


店と言っても看板が無い。だから店名も判らない。恐る恐る訊いてみると、「MOTOGITA(モトジータ)」という名の店だという。外出の支度をしていたオーナー枡本さんは、しかし私たちを快く迎え入れてくれた。

最初は世田谷など都内でやっていたが、2007年に藤沢、次いで葉山へ移転。3年前、さらにこの山あいに移った。最近流行りの"トライク"はじめ、国内外、何でも取り扱うが、中でもお気に入りは、"DUCATI"、"GILERA"などのイタリア製。どれも個性的なデザインの車両が、奥の事務所スペースに至るまでギッシリと詰めて並んでいる。


それはある種異様な空間だった。一番奥の部屋は、薪ストーブを中心に左右対称に食器棚が並び、それらを前に応接セットが置かれて、オフィスと言うよりダイニングである。そんな居住空間の中にまで多数のバイクが入り込み、当り前のように並んでいるのだ。湿度を帯びた重たい冷気が、ひんやりとその静かな室内を支配していた。


この部屋で枡本さんは愛車を眺めながら、夜な夜な酒を飲むのだという。みごとな「ガレージライフ」だ。と思った瞬間、薪ストーブの前の黒い椅子に、ふと松田優作の姿が浮かんだ。あれは『蘇る金狼』か。それとも『野獣死すべし』か。

夜会の客

下は枡本さん憧れの一台「DUCATI MHR MILLE NCR レプリカ」、1984年製

とそこへ、ふらり外から女性が入って来た。「開いてたので、居ると思って寄ってみたの」と快活な声。夕飯の買い物帰りといった風だ。この店の主は旅で何週間も居なくなることがあるのだとその女性。だからいつでも出発できるよう、定休日なし、営業時間なし、看板なしにしていると枡本さん。


「お茶でも飲むか?」と枡本さんが訊くと、「わたし今日、車で来てるの」と話が噛み合わない。どうも普段は酒を呼ばれているらしい。時には友人を招いて夜会を開くのだと、そう言って枡本さんは会の面々を指折り挙げ始めた。その一息ついた合間に、女性が継いだメンバーの名が、私の耳にミョウに留まった。

 「いま、ダイイング(dying)何とかって言いました?」
 「あぁ、COOK & DINE(クック&ダイン)さん。もう8年の付き合いになりますね」

と代わって答えたのは枡本さんである。何食わぬ様子で応じるその横で、「そうよ、次はそこよ」と女性が私に目で合図している――間違いない。次の目的地はそこだ。


またも帰る気でいるGAOさんをどうにかなだめて、その店へ向かってもらった。この日最後の目的地へのBGMはボズ・スキャッグス、"Lowdown"。

鉄鍋伝道師

住宅街の細道をさらに入り込んだ奥の奥

何かと車輪づいた一日だったが、最後の店「COOK & DINE HAYAMA(クック・アンド・ダイン ハヤマ)」へ着いてみると、ダッチオーブンやスキレットなどの「鉄鍋」の専門店だったのには驚いた。


これまでどこも「なんでこんな場所にこんな店が」という不思議な店ばかりだったが、それに輪をかけて、ココはもう完全に、目指して行かない限り辿り着けない場所である。車二台すれ違うのが億劫な幅の住宅街の細道を、さらに入り込んだ奥の奥にコノ店。


「日本一の品揃えでしょう」と髭にエプロン姿の店主・山口さん。鉄鍋と言っても、鋳鉄・鉄板・鍛造と、製造の仕方も様々あって、そのいずれの鍋においても充実のラインアップを誇る。ここまで取り揃えた店は国内ではまず見当たらないだろうとのことである。


今日何度目だろう。またも「異空間」に迷い込んだ思いである。鉄鍋の他にもそれを掃除するタワシ、包丁、その他あらゆる調理器具、燻製器具、調味料から食料品まで、東急ハンズのワンフロア分にも匹敵するほどの品数がズラリ並ぶさまは、まさに壮観。BGMは陽気なラテンナンバーで夏全開だ。

家庭用の鉄鍋をこれだけもの数取り揃えた店はまず無いという

2001年よりネット通販専業で事業を開始。商品が見たいとの要望を受け、一昨年の4月に実店舗をオープンさせた。元は材木置き場だった倉庫を改装した店内は、梁・天井はそのままに、梯子で上がる中二階を設けた大きな構え。厨房設備も備えている。


ダイニングテーブルが並ぶ奥のカフェスペースまで入って行くと、またも薪ストーブがある。今日見るのはこれで三度目だ。(きっと何かある……)と大いに期待して中を見たが、しかし何も無い。そろそろ"尻尾"を出してもよい頃だが……。


山形産の鉄瓶の蓋やら、宮古島産の塩の袋やら、"STANLEY"の魔法瓶の中まで、以後も目につくもの全て引っ繰り返しては"手がかり"を探したが、結局それらしきものは見つからなかった。


その横で、あんなに帰りたがっていたGAOさん・坂上さんの二人が「これからは動画だ」と言ってドイツ製の鉄鍋のメイキングビデオを食い入るように観ている。それで気付いた……あぁ、またも二人はハマってしまった。もはや根っこが生えたように動くまい。


大体、言葉数が少なくなった時がGAOさんは危ない。この週末にアメリカのめずらしいクラフトビールを、山口さん自慢の鉄鍋料理で楽しむ「アメリカ地ビールフェスタ」を店でやるとのことで、当日のメニューである手作りベーコンや"焼き枝豆"、とっておきのローストポークの話などを熱心に聞くうちに、ついにGAOさんは鉄鍋を買ってしまった。最後は店の外で記念撮影までして意気揚々と引き上げる上機嫌――。

見落としたもの

さぁそうなると、「早く帰る理由」が今は大きく違っている。ラーセン=フェイトン・バンドの「今夜はきまぐれ」を聴きながら、

 「いやぁ、早く鉄鍋で『肉』焼きたいね~」

とハンドルさばきも軽快にGAOさん。

 「枝豆は今がちょうどおいしい時季ですよ」

後部座席から身を乗り出して、坂上さんはしきりに三浦産を薦めている。ハンバーガー号の走りも快調だ。


だが事件は解決していない。深夜の電話の謎はまだ解けていないのだ。山口さんからもスタッフからも、何の合図も言伝も無かった。鍋も散々引っ繰り返したし、一体どこで犯人からのメッセージを見落としたのか……。


……あぁ、ひょっとすると! 前庭にいたあの黒ネコ……アレだったのか。じっとこちらを見つめた後、か細く「にゃー」と鳴いたあの声は、確かに夜中の電話の声とよく似ていた。……そうだ、「四足の獣」だ。ほんの寄り道のつもりでいた「Quadruped」が、実は犯人そのものをズバリ暗示していたのだ。


もしあのネコが声の主だとすると、見落としたのは……首輪だ。しまった、あの青い首輪に……と振り返るも、時すでに遅し。早く肉を焼きたい一心でGAOさんが駆る我らがハンバーガー号は、瞬く間に黄昏の横浜横須賀道路に乗り、都内めがけて疾駆していた。 <終>

< 文と写真:松原好秀 写真:GAO NISHIKAWA >

Lighthouse [神奈川・佐島]

― shop data ―
所在地: 神奈川県横須賀市芦名1-17-8
アクセス: 横須賀横須賀道路・横須賀ICより坂本芦名線経由7km
駐車場: あり
TEL: 090-7243-3033
URL: http://ameblo.jp/lighthouse0602/
オープン: 2009年6月2日
営業時間: 11:30~23:00
定休日: 火曜日(要確認)

上下とも1993年製フォード・レンジャー
オーナー市来さん。大学4年から今の商売を始めて一度も就職してないという経歴の持ち主
バイクの館のバイク群とジムニー
下の2001年製「KAWASAKI W650」は、枡本さんが「絶対に手放さない」3台中の1台
オーナー枡本さん。北は礼文島から南は足摺岬まで3万kmを下道で行く「全国居酒屋紀行の旅」を成し遂げた偉人
まずはこの辺が入門というロッジのスキレットと中蓋
家庭のガスコンロで燻製できる超有能小型スモーカー
オーナーにして鉄鍋伝道師の山口さん。三浦のおいしい野菜・魚に魅せられて、15年前、程近い横浜市金沢区へ移転
こちら千葉県・九十九里産の「緑茶豚」をダッチオーブンでじっくり焼き上げた、ローストポーク
夕暮れの森戸海岸にて
そして葉山マリーナの夕陽