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TSジムニーのトリセツ
VOL.006
サスペンションとチューニング後編
サスペンションとチューニング後編

前回はサスペンションの基礎知識についてお伝えしました。
今回はジムニーのサスペンションチューニングとは何なのか? どうすればいいのか?
それについて考えてみましょう。

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なぜサスペンションを変えるのか

TSシリーズには、アピオオリジナルのセッティングがなされたコイルとダンパーが装着されています。

前回、ジムニーのサスペンションはコイルスプリングとダンパー(ショックアブソーバー)、そしてリンクで基本構成されているとお伝えいたしました。今回は、サスペンションのチューニングについてのハナシ。

クルマのサスペンションのチューニングには、ふたつの目的があります。ひとつはドレスアップ効果。車高を下げる「ローダウン」、車高を上げる「リフトアップ」によって、フォルムを変えて見た目の印象を変えることができます。

ふたつめの目的な走行性能の向上。ローダウンは一般的に、オンロード性能の向上を目的にすることがほとんどです。乗り心地を考慮したスプリングのソフトな部分が要因で発生するロールを無くすことで、コーナリング時の重心の移動を抑制し、接地性を向上させます。

一方のリフトアップは、オフロード性能の向上が主眼です。長いスプリングとダンパーを装着することで車高を上げて、路面にある障害物が車両下部に当たらないようにしたり、オフロード走行で重要な「スリーアングル(対地障害角)」の数値を大きくして悪路走破性を向上させます。

ローダウンもリフトアップも、サスペンションを交換するという物理的な対策を施さないで行う方法がありますが、これはあくまでもドレスアップやコスト削減のために行うものです。これが必ずしも悪いわけではありませんが、根本的な走行性能の改善にはなりません。

ジムニーのようなクロスカントリー4WDは、多くの場合、リフトアップを行います。前述の通り、オフロード性能のアップとドレスアップ効果の両方を狙っています。では、ジムニーではどんなサスペンションのリフトアップを行うのでしょうか。TSシリーズの手法を見本に、それを解説していきましょう。

サスのチューニングはスプリングとダンパーが核

アピオの「スーパーつよし君 銀八 安心キット」(15万5000円・税別)。約45㎜リフトアップできる、オン/オフのバランスのいいサスペンションキット。

ジムニーをリフトアップする場合、まずスプリングとダンパーを交換することでそれを行います。純正よりも長いスプリングとダンパーを、シャシーとアッパーボディの間に入れることで、ボディとタイヤの距離が広がります。これイコール、車高がアップするという理屈です。

コイルを長いものに変えれば、ダンパーは伸びるから純正のままでいいのでは…と思われる方もいると思います。ダンパーのトラベル量は、コイルスプリングの自由長(全体の長さ)に合わせるのが一般的です。仮にスプリングだけを長いものに変えて、ダンパーは純正のままだと、コイルが長くなった分だけダンパーのピストンが伸びてしまいます。静止状態でも、ダンパーが長く伸びた状態になってしまうわけです。

もしこの状態で走ると、ダンパーがまったく機能しない上に、場合によっては曲がったりなどの破損をすることがあるのです。純正ダンパーのまま取り付け部分のブラケットを延長して装着するという方法もありますが、やはりスプリングにあった長さと減衰力を発揮するダンパーを装着することが肝要です。

さて、スプリングに話を戻します。ジムニー用の車高アップ用スプリングは、市場では約30〜60㎜車高アップくらいが一般的となっています。ランドクルーザーなどの大型車だともっと上げることもありますが、ジムニーのボディサイズとのバランスを考えると、それくらいがオン/オフの走行性のバランスが取れる数値と言えるでしょう。

例えば、オフロード走行の性能を重視した「APIOジムニーTS4」は、最大60㎜アップのサスペンションが装着されています。オフロードでは地形に合わせて、4本のタイヤがよく動くことが走破性アップのカギになります。そこで自由長の長いスプリングと、それに合わせたダンパーを付けているのです。

APIOジムニーTS7のリアサスペンション。オン・オフのバランスを考えたセッティングとなっている。

もちろん、オフロード性能を上げるにはスプリング&ダンパーをただ長くすればいいとものではありません。サスペンションの伸びや縮みの具合を決めるスプリングの「バネレート」や、ダンパーの「減衰力」といった要素が重要となります。アピオのサスペンションは、競技やラリーレイド出場の経験から、こうした数値を細かく決めているのです。

オンの高速性能とオフロード性能の両立を目指した「APIOジムニーTS7」は、約45㎜車高アップのサスペンションが採用されています。オフロードではよく動くサスペンションが理想的ですが、オンロードでよく動くサスペンションは必ずしも有利ではありません。乗り心地はいいのですが、コーナーリングの時には大きく斜めに傾く「ロール」の原因になってしまうのです。

そこで林道などで遭遇する地形での走破性を考慮しつつ、オンロードやダートでの高速性能を重視。「動きつつも、大幅には動かない」という二律背反とも思えるサスペンション性能を実現しています。

“補正”という大切なチューン

APIOジムニーTSシリーズは、フロントのリーディングアームにキャスター角を調整できる偏芯ブッシュを装備している。

前にもお伝えした通り、クルマのサスペンションはスプリングとダンパー以外に、タイヤの動きを正しい方向に導く「リンク」と呼ばれる部品が付いています。リンクはいわばガイドのような役割をしてくれます。ジムニーの場合、3リンク式サスペンションですので、前後輪ごとに2本のアームとラテラルロッドが付いています。

2本のアーム(前はリーディングアーム、後はトレーリングアーム)は、タイヤの前後と左右の動く位置を決めています。ラテラルロッドは、ホーシング(リジッド)の位置がボディに対して正しい位置になるようにしてくれます。

さて、これらのリンク。長いスプリングとダンパーを装着してボディとシャシーの距離が変わってしまうと、当然ながらリンクの長さや取り付け角度も変わります。これらが変わってしまうと、真っ直ぐ走らない、曲がりづらいといった現象が起きてしまいます。

リフトアップ時にサスペンションの動きの適正化を図るのが、偏芯ブッシュです。2本のリーディングアームの取り付け部分に入っているブッシュの孔の中心をずらすことでアームのキャスター角を適正にするというパーツです。アーム自体の長さを変えるとか、取り付け部分のブラケットの長さを変えるというチューニング方法もありますが、できるだけコストを抑えるという点では、ハイキャストブッシュの装着は有効な手段です。

ハイリフトした場合のラテラルロッドは、長さが調整できるものを装着してホーシングの位置を適正化するのが一般的です。

フロントのサスペンションの動きを決めているスタビライザーの交換も、場合によっては考えたいものです。スタビライザーはオンロードでの走行性能を考えてスプリングとダンパーの動きの一部を規制する、補助のトーションバースプリングです。オンロードでは必要で、オフロードでは邪魔になるパーツですが、これもどの性能を重視するかによってバネレートの違うものを装着してやります。

最後に変えたいのが、バンプラバーです。バンプラバーは凹凸などをクルマが越える時、サスペンションが縮み過ぎて底付きしないようにするためのゴム製のパーツです。バンプラバーのサスペンションのトラベル量によって長さなどが設定されていますので、ノーマルのままですと、交換したサスが動きすぎてタイヤがタイヤハウスに当たってしまうことがあるのです。オフロードではこの現象が起きると、タイヤがハウス内に食い込んで回らなくなるという恐れがあります。

サスチューニングは奥が深く、自分が希望するクルマのキャラクターの方向性によって、チューンの内容も変わってきてしまいます。愛車をモディファイする場合は思い込みなどで自己流の改造をするのではなく、豊富なノウハウを持つショップのスタッフと相談して行った方がいいでしょう。

アピオはオフロードレース、トライアル、そしてラリーレイドの実戦経験を基に得たノウハウを活かして、ジムニーユーザーが満足のいくサスペンションチューニングを提案しています。サスペンションは運転の楽しさに大きく影響する大切な部分。いつ乗っても楽しい! という愛車になるように、慎重なパーツ選びと装着をおすすめします。

<文/山崎友貴、写真/山岡和正、山崎友貴>