10月30日から11月8日まで開催されている「東京モーターショー2015」。
44回を迎えた今回のテーマは「きっと、あなたのココロが走り出す」。
だったら走らせていただこうじゃないかと、隊長で2人で会場である東京ビッグサイトへ。
今回はどんなクルマやバイクが登場するのか!?
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若い読者諸兄はご存じないと思うが、かつての東京モーターショーは、晴海にあった東京国際見本市という東京ビッグサイトの前身施設で行われていた。隊長や僕が幼少のみぎりは高度成長のまっただ中で、しかもスーパーカーブーム。国内にはありふれた量産車しかないのに、海外にはカウンタックLP400やロータスヨーロッパなどペタンペタンのスポーツカーがいっぱいあって、欧米自動車文化の先進性に打ちのめされていた時代だ。
クルマは庶民の高嶺の花であり、スポーツカーはその究極にあった。だからこそ、東京モーターショーは夢の祭典だった。モーターショーに行くことだって大変な事で、何せ歯磨き粉を買うと箱に割引券や招待券が付いていた時代だったのだ。山崎少年も汚い阪神の野球帽を被り、夢中になってコンセプトカーにかじりついていたものである。
10数年後、念願叶って自動車雑誌業界に進んだことで、毎回東京モーターショーを拝見できるし、かつて壇上にあったようなスポーツカーを所有する機会も得た。だが、不思議なのである。いつの頃から、モーターショーのときめきが少なくなってしまった。夢の祭典は夢でなくなり、昨今は特に「展示会」になってしまった。
クルマは庶民にとっても決して、高嶺の花ではなくなってしまったからだ。ちょっと頑張れば、多くの人がスポーツカーや高級車に乗れる時代。モータリゼーションと言う言葉は遙か昔のもので、自動車の進化はもはや頭打ち。自動運転は目の前にまで来ており、あと進化するとすれば「飛ぶ」ことぐらいだ。
もちろん、地球が抱えている環境・エネルギー問題を考えれば、自動車の推進機関が進化する余地はまだまだある。だがハイブリッドだ燃料電池だと、そういうエコロジーな技術ばかりを見せられても、果たして人は夢を見られるのだろうか。
いきなり冒頭からヘビーな話題になってしまったが、前述の通り、今回のショーのメインテーマは「きっと、あなたのココロが走り出す。」だ。会場を俯瞰したところでは、スポーツカーの展示が多いように感じられたが、果たしてそれはワクワクするものだろうか?
我が探検隊メンバーは、何せ2人とも趣味には小うるさい。デザインが悪いとか、そそらないとか、いつも言いたい放題。そんなジム探メンバー2人が、今回の東京モーターショーを勝手に、そして辛口に総括してみた。
さてジムニー探検隊としては、まずはスズキのブースを表敬訪問。昨今のスズキはひいき目ではなくても、なかなかいいデザインのクルマを連発している。ハイブリッド技術も着々と進化させており、今回はスズキの悲願であるストロングハイブリッドシステムを、ソリオで発表している。まあ、先日出たばかりのマイルドハイブリッドのソリオを買った人はどうするんだ…って問題は置いておこう。
で、読者諸兄も気になるところが、やはり次期ジムニーだろう。すでに三菱ジープに迫るモデルサイクルとなっているJB23/43型ジムニーだが、あと数年で新型が登場すると噂されている。前回はジムニーのスタディモデルと思われる「X-LANDER」が出品されていたが、今回は果たしてどうなっているのか。
もちろんジムニーという名前は冠されていないが、気になる1台が壇上にある。それが「マイティコンセプト」だ。かつてスズキが販売していた、軽自動車のピックアップ「マイティボーイ」を彷彿させる名前と、後部のデッキ。おそらく来場者の多くが、トヨタ「bB」のようなデッキの付いたモデルを画策しているのか? と思うだろう。
だが、よーくボディのラインを見ていただきたい。実はこれこそ、次期ジムニーのデザインを世に問うスタディモデルなのではないだろうか。ドアシル部分は厚みがあって、現状のままでは本格的なオフロード走行には向いていないが、仮にそれを薄くして最低地上高をもっと稼いだなら…。
フロントマスク、ボンネット、そしてフェンダーからドアに続くラインも、よく見ていただきたい。実はどこか現行型ジムニーに似てはいまいか。リアデッキなんて突飛、と思うかもしれないが、もしこれがバリオルーフを使った新しいオープントップモデルの提案だとしたら…。
現行型は国内への幌車の導入がなく、一部のファンの間では残念がられている。オープンエアの気持ち良さをジムニーで復活させようという試みは、開発陣もおそらくしているだろう。
使われているシャシーはイグニスのものを共用しているように見えるが、それはあくまでもスタディモデル。次期ジムニーもラダーフレーム構造を踏襲すると言われており、従来と悪路走破性が劣るということはないだろう。
これがジムニーのコンセプトカーであるとはメーカーサイドはひと言も言っていないが、自分なりと次期モデルを想像すると、何となくこういうカタチは思い浮かんでしまう。ちなみに河野隊長は、今回のショーの中でこのクルマがオキニでイチオシ。
今さらデッキモデルが売れるとは思えないので、こうしたコンセプトをどのように活かしていくのか、すごく楽しみである。
コンセプトカーというのは、あまり絵空事のデザインでは昨今はウケない。ちょっと先に市販車としてカタチを整えて出る、と思わせるものがファンの目を惹く。今回会場を歩いて、そう思わせてくれるものが何台かあったが、日本を代表するスポーツカーの未来が見えた2台がある。
まず最初が、マツダの「RX-VISION」だ。名前の通りで、RX-7やRX-8の後継モデルのスタディモデルだ。昨今のマツダデザインのプロトコル通りに造形されており、マツダデザインが非常に成熟していることを示す秀作だと言える。
3ナンバーボディをいっぱいに使ったボディサイズで、見ようによってはS30/31系フェアレディZにシルエットに似ている。まあ、王道のスポーツカーのフォルムだ。たしかに美しくもある。
しかし、だ。この隣にはこれ見よがしに「コスモ・スポーツ」が展示されており、いやが応にも比較するようになっている。たしかにハッチバックスタイルというのは、歴代のRXシリーズを踏襲しているが、本格スポーツを標榜してきた同シリーズが、いきなりこんなサイズアップというのは、ファンへの裏切りではないのか。
またこのショーでは結局、事前に盛り上がっていた新ロータリーエンジンの実際の展示もなく、あまり実のあるものではなかった。新型ロードスターがダウンサイズによって同社ラインナップでスポーツカーの主役の座を確立していることを考えれば、もはやRXシリーズが継続するにはサイズアップしかないのも理解できる。だが、この肥大ぶりはいただけないと思ってしまうのである。
さて、もう1台の注目モデルが「NISSAN CONCEPT 2020 VISION GRAN TURISMO」だ。実はこのモデル、ゲーム「グランツーリスモ6」とのタイアップで製作したのだが、果たしてモニター内の絵空事なのか?
デザイナーはもちろん様々なことを考えていると思うのだが、こちらもよく見ると、各部にGT-Rの面影を感じることができる。もちろん、バットマンカーみたいでこのまま市販できるわけはないが、次期モデルの方向性をなんとなく窺えるデザインではないだろうか。
日産はル・マンのプロトマシンクラスで積極的な活動をしており、そのマシンの人気も高い。そうしたエッセンスが市販車に取り入れられることは、ファンにも大歓迎のはず。そして、それが市販車として具現化できるのは、GT-Rだけだ。
このモデルを見ると、サイドウインドゥ、ヘッドライト、テールランプの形状が、明らかに現行型GT-Rを意識していることが分かる。スカイライン時代から脈々と受け継がれてきたGT-Rのアイデンティそのものだ。
現状ではシャー専用ゲルググだが、これをもっとソリッドにしていけば、何となく次期GT-Rが見えてくる気がするのだが。
クルマもしかりだが、バイクも業界全体で盛り返しを図っている。免許は容易く取得することができるようになった反面、駐車場や高速道路料金の問題など社会的なバイクの風当たりはまだまだ強い。最近ではようやく若い人も少し戻りつつあるようだが、バイクユーザーの高齢化には決定的な歯止めはかかっていないように思える。
今回のショーでは、スーパーカーが購入できるようなロードゴーイングレーサーも登場するなど、久しぶりに「前傾」のバイクの元気がいいようだ。だが、高額モデルもいいが、それでは若年層やハイエンドユーザーを取り込むことは、僕は難しいのではないかと思う。
僕も輸入バイクを数台乗り継いだが、輸入車には国産車にはない香りがある。それはブレーキのマスターシリンダーひとつをとっても、アルミ削り出しのゾクッとするような美しさがあったりするのだ。ジムニー乗りにはバイク好きが多いので、僕らの言うことが分かっていただけると思うが、隊長も僕もそういうディティールの美しさこそ、所有欲を刺激するファクターだと思っている。
そんな中で、今回ホンダのバイクが非常にホットだ。特に「CBコンセプト」には事前発表時から注目していた。昨今、美しいネイキッドモデルがめっきり無くなってしまった。ホンダのCB1300、CB1100ともいいバイクなんだと思うが、CB750のK型が持っていたような魅力的な香りは皆無だ。かつての日本のバイクには、もっとアイデンティがあったはずなのだ。
そういう意味で、CBコンセプトは一見地味ではあるが、非常に香りのするバイクに仕上がっている。ヌバック調の革シートなどは、果たして市販車で実現されるかは分からないが、各部の意匠や質感を見ると“バイクの魅力とは何か?”をよく考えていることが理解できる。
LED式ヘッドライトなど、現代的な技術が投入されており、単なる懐古主義になっていないところも好感が持てる。ずっとネイキッドバイクが欲しい僕は、もしこれが出たらBMWのR Nine Tなどに行かず、これを買いたいなと思うのだが。
もう1台、気になったのが「CRF1000L Africa Twin」だ。アフリカツイン・シリーズは国産オフローダーとしては頂点とも言えるモデルだが、これまで国内販売されたのは3モデルだけ。かつてパリダカの人気があった頃、アフリカツインに乗って砂漠を疾走するというのが、オフロードファンの夢のひとつだった。
今回出品された新アフリカツインは、1000ccの直2エンジンを搭載しており、何とDCT(セミオートマ)モデルも設定されているという。オンもオフもこなすグランドツアラーとして、BMWのGSシリーズにも負けない魅力を持っている気がする。これも発売間近のようだから、価格次第では触手が動くバイクだ。
同じブースでちょっと目を惹いたのが「GROM 50 Scrambler Concept-One」。昨今、150cc市場というのが盛り上がりそうなのだが、50ccのスポーツバイク市場の復活というのも各メーカーが眈々と狙っているようだ。僕や隊長が子供の頃、50ccバイクのブームというのがあって、多くの高校生のマストアイテムとなっていた。
交通法規を考えると、あのブームがもう一度来るとは思えないが、もっと若者がバイクに戻ってくる土壌はあってもいいと思う。このグロムのコンセプトは2台あって、どちらかというと若者よりも50代以上を狙っているようなバイクだが、部屋の中にちょっと飾っておくようなホビーとしてでもおもしろいのではないだろうか。
ちなみに今年はホンダやヤマハが大型の三輪車を出品していたが、こちらは僕的には懐疑的。誰でも安全に乗れるというコンセプトはいいのだが、どうもスタイリングが気に入らない。昔あった、ママチャリを思い出してしまう。そもそも前2輪のトライクは、石畳の多い欧州の道路事情を考慮して考えられたものだが、それが日本の市場にマッチするとは考えにくい。自ら「バイクにちゃんと乗れませーん」と言っているようなものだ。まあ、輸出モデルとして考えているのかもしれないのだが。
モーターショーでの楽しみのひとつが、トラックやバスを見ることだ。こういうのは普段、なかなかじっくりと観察する機会がない。ご存じの通り、日本のトラックというのは世界的にも優秀なのだが、そのデザインは素晴らしい。あんな画一的な基本形状の中でも、細部にまで機能美で溢れている。働くクルマだからこそ持つカッコよさは、子供から大人まで男心を掴んで離さない。
写真の2台は、とくに美しいと感じた2台だ。まずグリルを見ていただきたい。「何だ、このカタチは!」と思うようなフィンである。ミラーやステップにもきちんと機能が持たせられてあり、それでいてあくまでも美しい。ここまでくると、乗用車ってなんなんだと思えてくる。
大型トラックは数千万円という車両価格ゆえに、細部まで行き届いたことができるのかもしれないが、反面、環境技術の投入でコストを奪われるはずなので、この業界のエンジニアやデザイナーも大変だと思う。でも、トランスフォーマーしかり、カッコいいトラックというのはカッコいいスポーツカーを凌駕する存在。こういう美しいトラックが増えると、日本の道路はもっと楽しいはずだ。
クルマ好きには自転車好きが多い。まあ、僕もあまり乗らないが、美しい自転車には心惹かれる。欧州だと、自動車メーカーやバイクメーカーが自転車を作っていることは珍しくない。だが、日本では自転車は専門メーカーが作るのが当たり前になっている。でも常々思うのだが、カッコいい自転車を自動車メーカーが作れば、きっとクルマとセットで買うユーザーは多いのではないだろうか。
今回は2メーカーでカッコのいい自転車を発見した。まずはスズキ。これは自転車ではなく、厳密にはバイクらしい。ロードサイクルに50ccのエンジンを付けたような、いわゆるモペットのようなものだ。名前は「フィール フリー ゴー!」。そのセンスはいかがなものかと思うが、カタチはえらくカッコいい。
かつて「オネアミスの翼」という映画に出てきたバイクに似ている。日本の保安基準でこれが通るのかは分からないが、できるならぜひ市販化してほしいものだ。どんなヘルメットを被ればマッチするか、ちょっと困ってしまうが。
もう1台は、スバルの「VIZIV FUTURE CONCEPT」の横に展示されていた自転車。同車をデザインしたデザイナーがクリエティブしたそうである。もちろん、ペダルは“水平”になっていないが、フレームとか目眩がするほど美しい。自転車も軽量化やら何やら、いろいろなデザインの制約があると思うが、自動車メーカーに好き勝手造らせたら、結構いいものができそうな気がする。
しかも昨今の自転車は目玉が飛び出るほど高いので、多少な値段でも美しければ買うユーザーも多いのではないだろうか。
さて、モーターショーにはまだまだ面白いモノがあったので、残りはギャラリーのほうでご紹介する。薄味になったとは言え、やはり東京モーターショーはまだまだ楽しい。ぜひ皆さんも、自分の五感でモーターショーを楽しんでいただきたい。11月8日まで! 急げ!
〈文・写真/山崎友貴〉