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ON THE STREET BURGER
VOL.014
初夏、筑波の空と"海"~Hi-5 BURGERS [茨城・つくば]
初夏、筑波の空と"海"~Hi-5 BURGERS [茨城・つくば]

都心からもつくば以北からも客が訪れる
この店はバーガー上のまさに"要衝"。
筑波山ドライブの途中是非訪ねたい一店だ

JAXA・筑波宇宙センター展示のH-Ⅱロケットの前でTS7、通称「ハンバーガー号」

同行者について、これまで書いたり書かなかったりしてきたが、今回は坂上さんである。本業はWebコンサルタント。昨年から『オンザロードマガジン』の制作に携わり、本コラムの取材は河口湖・羽田空港ほか、これまで四度共にしている。


その坂上さんと朝、集合場所の中目黒駅で会った時、何やら楽しげだったので理由(わけ)を訊くと、今回の目的地・つくばの辺りは両親の出身地で、親戚・従兄妹が今も多く住んでいるのだが、しばらく訪ねていないので本当に久しぶりなのだ、と教えてくれた。

筑波の空

この日の取材はJAXA「筑波宇宙センター」からスタートしたが、そのJAXAが開発した純国産「H-Ⅱロケット」と、つくばの店「Hi-5 BURGERS(ハイファイブ・バーガーズ)」とは並べると字面が少し似ている。


ハイファイブとは所謂「ハイタッチ」、ファインプレーなどした時に選手が交わす、あのこと。都心よりはるかに青く広いつくばの大空に向かって、両手をいっぱいに差し伸べたような爽やかな看板が印象的な店だ。


店主・片平"アツシ"さんは、東京・本郷の名門「FIRE HOUSE」に2年勤め、その傍ら通っていた調理師学校の仲間らと'01年、埼玉・川越に伝説的名店「OATMAN DINER」をオープン。その立ち上げメンバーの一人となった。だからオートマンとハイファイブのバーガーには、ヒール(下バンズ)が黄色くなるほど多量に塗ったマスタードや、細切りのレタスなど、共通点が多い。

オープンから3年、片平さんはオートマンを離れ、いよいよ自身の店の開業準備に取り掛かる。が、物件探しの半ば、突然の病に倒れ、以後1年余りにわたる闘病生活を余儀なくされた。回復後もしばらくは飲食の仕事に就けず、それでも'06年12月、ついに念願のハンバーガーショップを地元つくばにオープンさせた。


そんな苦労人なので「すべての人にやさしい店づくり」というキーコンセプトがコノ店には貫かれている。入り口の小さなスロープからトイレまで、店内は車椅子サイズのバリアフリー。カウンターもテーブル席も車椅子の高さに合わせ特注した。子供用の椅子も3脚用意。


3年前、3月11日の震災の折には、総重量100kgもある自慢の鉄板が台からずり落ち、床は油浸し、瓶はみな落ちて割れ、その他店内損傷激しく営業不能に。しかし翌日には店の前でハンバーガーとスープ計60食を100円で販売する心意気を見せ、一躍評判になった。


その後も屋外用のプロパンガスとコンロは常備してあり、「どこでも2時間以内にハンバーガーが提供できる」。やさしさだけでなく、そんなたくましさも兼ね備えた店だ。

スプラウトとスタンプベーコン

ハンバーガーは昨年内容を一新。前はコンパクトによくまとまった小ぶりなバーガーだったが、今はドーンと上背のある、食べ応えのあるものに変わった。全16品。中から「アボカドバーガー」R 1,350円にチェダーチーズ108円のトッピング。


「ふか~っ」としたバンズは地元・桜の名パン店「ブラン」作。豪州産パティはレギュラー130g、以前より20gの増量。厚みがあって中心部が「くしゅっ」とやわらかく、外はカチッと硬め。塩胡椒控え目の食べやすくおだやかな味わいの中、底でマスタードの酸味と苦味が利いている。


軽く蒸し焼いたアボカド2分の1個のほろ苦味。スプラウト(新芽野菜)の"earthy"なにおい。レタスは細切り。オニオンはみじん切り。浅漬けのピクルスは自家製。サイドのフレンチフライも同じく自家製。通常はじゃがいも丸1個、大盛りは3個分が乗って来る。


実は坂上さんが頼んだベーコンチーズバーガーR1,566円が上をゆく面白さで、スライスしたベーコンを厚く円形に固めた「スタンプ(切り株)ベーコン」なる焼き豚状のものを挟んだ、まさに特筆に値する一品だった。これはユニーク。

筑波の"海"

ベーコン然り、この日は坂上さんにとって「当たり」日だったようで、私が席を外している間に一同意気投合しているので何かと訊いてみると、坂上さんの父方・母方の出身地が、店主片平さんとスタッフ"モリィ"、それぞれの地元と同じであることが判ったのだという。それは浅からぬ縁。坂上さんにはプライヴェートでも是非再訪いただかねばなるまい。


予定を30分押して店を出、続いて紫峰(しほう)筑波山の中腹、「つつじヶ丘駐車場」へと向かった。ナビは幹線道でなく、その隣を走る旧道をルートに選定。門も瓦もたいそう立派な旧家が続く集落の中をしばし走り、抜けるとそこは左右一面の水田だった。


どこまでも平たく、平らに、水を張った田んぼが延びている。さらに水を注ぎ込めば、そのまま海か湖になりそうな、まるで海の底のような地形だ。その海の中に農家の屋敷とそれを囲む木々が、まさに島のように点在している。そしてその後ろに、緑に萌える初夏の筑波山が忽然と、かつ悠然とそびえ立つ。

「いかにもこの辺らしい風景だ」と坂上さんは言い、親戚の家に泊まり込んで僅か2週間で自動車免許を取った、二十歳前の話を続けた。その教習の折、こんな田んぼ道ばかり走らされたという。


従兄弟の車で何度も登ったという筑波山麓の道を走り、やがて目的の駐車場に着いた。取材のスケジュールはここまで。撮影が済めば、あとはノープラン。夜までに都内に戻る、それだけだった。


 「私はロープウェイに乗って、山頂まで登ってみようと思います。坂上さんはどうされますか?」
 と訊くと、少し考えた末に、やや思い切った調子で坂上さんはこう答えた。
 「久しぶりなんで、田んぼの間でも走ってみようと思います」
 「私は空を見てきます。坂上さんは"海"の中ですね――」

見晴らしのよい富士見橋まで出て、私は坂上さんを見送った。初夏、まばゆい筑波の大海原めがけ、駈けおりてゆくジムニー。


< 文と写真:松原好秀 写真:坂上哲也 >

Hi-5 BURGERS [茨城・つくば]

― shop data ―
所在地: 茨城県つくば市桜3-8-4 アグレアーブル1F
アクセス: 常磐自動車道・桜土浦ICより県道201号線20分
駐車場: 3台あり
TEL: 070-6949-7373
URL: http://hi5burgers.jp/
オープン: 2006年12月16日
営業時間: 11:00~20:00(LO19:00)
定休日: 月曜日(要確認)

店の前で
初訪問時は田んぼの海の中をコミュニティバスに揺られて。当時の看板の縁取りは目の覚めるような青だった
愛車を眺めながら食事ができる
震災後より始めたホームメイドスイーツ。写真はバナナクリームパイ410円
店主片平さんと愛犬「じゃが」1歳
坂上さんの父親と同郷のスタッフ「モリィ」
ジムニーで走る初夏の筑波山麓。中央の写真に写るは筑波山神社の大鳥居
筑波山ロープウェイとジムニー
空を目指し、山頂へ
筑波の空。女体山山頂、標高877m
そして筑波の海
そして、駈けおりてゆくジムニー