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ビヨンド・ザ・フィールダー
VOL.010
冬の富士北麓を駆ける
冬の富士北麓を駆ける

アウトドア誌「フィールダー」で始まった新連載の『グレートドライブ』。
クロカン4WDでしか行けない絶景を探して、ジムニーでドライブするという企画。
第一回目は冬が特に美しい、富士山の北麓へと出かけた。

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ジムニーで富士山麓が走れる!

恩賜県有財産管理組合に申請すると、200円で発行してもらえる「入山鑑札」。

富士山は律令国家の昔から、人々に神聖視された名峰である。山頂には浅間大神が鎮座すると言われ、室町期から一般人の登山も盛んに行われてきた。江戸時代には特に、「富士講」と呼ばれる信仰登山が盛んに行われ、富士登山に行けない人のために各地にミニ富士山「富士塚」が造られたほど流行した。

円錐型の独立峰は、世界でも稀に見る美しさで、世界遺産でもあることから昨今では大陸からの観光客がわんさかと訪れている。「芙蓉」「富嶽」「養老山」「行向山」「妙光山」「四方山」。これはすべて富士山の別称で、こんなに多くの名前が与えられるほど人々から敬われ愛されてきた。

そんな富士山は、かつてはクロカン4WDの天国だった。富士山の裾野には無数の名も無き林道があり、そこを踏破するのがオフローダーたちの至上の悦びだったのである。だが30年ほど前に環境省によって富士山域の車両走行禁止令が施行され、富士山は不可侵な「聖域」になってしまったのである。

だが、今でもクロカン4WDで走れる、いやクロカン4WDでしか走れないエリアが富士の北麓にある。それが陸上自衛隊の北富士演習場だ。「演習地だから入れないでしょ」と思うだろう。だがここには「立ち入り日」というのが設定されていて、演習が行われない休日などに一般人の立ち入りができるのだ。

だが、立ち入りは地元民の生業のため、というのが基本原則となっている。生業とは、山菜などの採取だ。ただし、例外として別な目的があって、それが恩賜県有財産管理組合に認められれば、立ち入りが許可される。ちなみにクロカン4WDの走行のみを目的とした立ち入りは許可されないので、自然観察などの目的を持って入りたい。

申請が許可されると200円で入山鑑札が発行される。鑑札は2か月間有効なので、別日に入ることも可能だ。くどいようだが、無謀なオフローダーの走行が地元民とのトラブルになっているようなので、くれぐれも規定の道路以外を走行しないようにしたい。規則を守らないと、立ち入り自体が廃止されることもあり得る。

昭和初期からあった北富士演習場

ゲートの向こうは、陸上自衛隊の演習地。普段立ち入り禁止の場所だけに、入る瞬間は胸躍る。

富士山北麓に広がる自衛隊の北富士演習場は、昭和11年に旧陸軍によって造られた。これは想像だが、何もない原野と原生林の風景は、満州の景色に似ていたからではないだろうか。砲兵の訓練にはもってこいの環境であったろう。

昭和20年の敗戦で米軍に接収され、昭和33年に日本に返還された。以後、陸上自衛隊の演習場として使われている。富士山の反対側にある東富士演習場が攻撃ヘリや戦闘車両が走り回っているのに対して、こちらはどちらかというと地味な印象がある。

北富士演習場は主に第一特科隊が使用しており、砲撃やミサイル訓練などを行っているという。昔、某四駆専門誌にいた頃、籠坂峠の林道を走っていたら、いきなり景色が開けた。目の前に塔があり、その上に赤旗がはためいている。何か嫌な予感がしていたら、いきなり砲撃訓練が始まって慌てて逃げたという想い出がある。昔は、演習場につながる林道もゲートなどなく、自由に走れたのである。

さて、ゲートには「あれをするな」「これは禁止」というお決まりの看板があり、それを一読してから演習場内にいよいよ入る。冬は雪が積もっていることが多いが、そもそもここは火山灰の地質だ。黒い火山岩の砂利が滞積しており、四駆と言えどもハマった場合はどうにもならない。昨今の電子デバイスが付いたランクルなどは楽勝だが、ジムニーのような古き良きパートタイム4WDだと、それなりにテクニックが必要になる。

ただ、演習場内の道はフラットダートなので、そこから外れなければスタックするようなことはない。SUVでも走れないことはないが、やはりタイヤは最低でもオールテレーンタイプ、できれば堅牢で優れたトラクションを発揮するマッドテレーンタイプがいいと思う。積雪時もスタッドレスタイヤより、マッド&スノータイヤの方がよく利く。

射場を示す演習場内の標識。普段見慣れないだけに、GPという表記が萌える。

ダートは走りやすいが、4Hの2速、3速を多用するシチュエーションで、3速だとトルクが若干足らず走にくい。いっそ、4Lにシフトしたほうが走りやすいだろう。

30年前に、ジープJ58で走って以来の雪の演習場だが、この景色は今も昔も変わらない。自衛隊も闇雲に大砲を撃ってる様子ではなさそうだ。環境を守りながら、最低限の訓練をしているに違いない。

巨匠が「こんなのあるよ」と嬉しそうに見つけた看板は、「GP99」。ガンポジション、つまり射場を表す看板なのだが、GPと表記するところがミリタリーマニアの心をくすぐる。演習場だから、その手の看板がいっぱいあって、手榴弾投擲場などというのもあった。その横に「不発弾や破片には絶対に触らないでください」と書いてあったので、これは絶対に巨匠が「ちょっと拾ってきてよ」と言う予感がしたので、慌ててジムニーを発進させた。

海外の原野を彷彿させるダイナミックな景色

演習場の外周路を走っていれば、まずスタックする恐れはない。大型車両も通行する整備されたフラットダートだ。

4597haというとてつもなく広大な北富士演習場。東富士演習場に抜ける道もあって、そこを通ればかなりのアドベンチャードライブになる。ただ、東側の麓は北側とは知識が若干異なり、砂利の粒が大きい。そのため、油断するとすぐにスタックするのである。また道も複雑なため、土地勘がない人は行かないことに越したことはない。

北富士側だけでも1周するのに1時間以上はかかるので、きっと楽しめると思う。それに東側より北側のほうが景色が美しく、まるで海外でもドライブしているかのようだ。ここが軍事目的の施設だということをしばしば忘れてしまうほどだ。

山中湖と富士山が交互に見えるダートを走っていると、本当に贅沢な気分に浸れる。だが、ここはまさしく山梨県。

ダートの状態も非常にいい。積雪時もそうだが、無冠雪期もここの道はテールスライドやドリフトを覚えるのにうってつけだ。ドリフトのテクニックについては「TSジムニーのトリセツ」で別の機会にご紹介するが、余計な凹凸がない道なのでコントロールを覚えやすい。ただし、スペアタイヤやパンク対策、牽引ロープの準備などをお忘れなく。

車窓の外はまるで北欧のよう。時折、野生動物の気配もある。

この日は降雪直後だったこともあり、僕らの他にもクロカン4WDがかなり訪れていた。なかなかクロカン4WDの潜在性能を発揮できない昨今の道路事情の中にあって、ここ北富士演習場はそれが実感できる数少ないサンクチュアリーとなってしまった。

ジムニーを降りて付近を散策してみると、野生動物の足跡が結構多い。この草しかないような原野の中でも、逞しい自然は息づいている。脇の原生林からも、この寒さだというのに野鳥が多くさえずっていた。ちなみにこの原生林では山菜やきのこ類が多く採れるらしいので、詳しい方はしかるべき季節に訪れてみたらいかがだろうか。

今は厳しい季節だが、春先や秋はのんびりとしていて実にいい場所だ。雄大な霊峰に抱かれながら、デイキャンプなどを楽しむには格別の場所だ。季節を変えて訪れるには、絶好の場所と言えるだろう。

なお、ここは有料のオフロードコースではないので、くれぐれも無茶なオフローディングはやめていただきたい。地元民以外立ち入り禁止の憂き目にならぬように、規則とマナーだけは守ろう。

<文/山崎友貴 写真/山岡和正>

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