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森の光と黒蔵の旅 / 写真家・瀬尾拓慶
VOL.002
黒蔵と冬の森
黒蔵と冬の森

凍てつく風が吹いていた。
うっすらと雪が残っている森の中。
今夜は冷えそうだ。。。
その日も、黒蔵(ジムニーシエラ)の中で私は眠りについた。

今朝は、やけに足が冷たい。

沢山の狐の足跡

黒蔵の結露したガラス越しに、薄暗がりの白い世界を見た。
寝袋の中で足をすり合わせる。
外に出たくない、寒すぎる。
とはいえ、考えていても仕方がない。
覚悟を決めて外に出る。
昨晩はそれなりに降ったらしく、粉の様な雪が足首程まで積もっていた。
カメラを持って、早朝の森を歩き回る。
ふと足元を見ると、てんてんと雪の上に動物の足跡が付いているのを見つけた。
鹿、狐、うさぎ、様々な動物がここにいたのだろう。
この白くなった森に何を想っているのだろうか。
気配を追う様に、私は辺りを見回した。

アスファルトと雪。コントラストが美しい

歩くたびに、雪がサラサラと靴の上を流れる。
夜明けの光を楽しみながら1日の計画を練ってみるが、結局は練りきれないのが常だ。
凍りついた小川を見つめるのをやめ、黒蔵へ戻る。
排気口の雪を確認し、カメラを手の届く場所に置いてエンジンをかけた。
静寂を壊す音に心を躍らせ、白銀の道に線を引く感触を楽しむ。
雪をかぶった木々は、朝の始まりを喜ぶかの様に輝いていた。
ところどころで車を停めては、新しく出会う光景をカメラで切り取ってゆく。
場所によっては雪があまり積もらなかったらしく、黒いアスファルトが見えていた。
モノクロームの様な美しいコントラストを眺めつつ、その先を更に目指す。

鹿を追う、親子グマの足跡

しばらく走っていると、ひときわ大きな足跡を見つける。
「熊だ、、、」
車を降りて確かめる事にする。
どうやら冬眠していない親子熊がいるらしい。
よく見ると、鹿の足跡もある。
追っているのだろうか。
冬の熊は怖い、特に子連れは恐ろしい。
出会うことはなかったが、少し警戒を強くして撮影を続ける。
きっと、彼らはこちらには気がついている筈だから。

寒々しくも、美しい

森の中を走っていると、フロントガラスに音もなく雪が当たった。
どうやら、また降り始めた様だ。
木々を背景に、記憶に残る光景が広がってゆく。
少し休憩がてら、靴を脱いで隣のベッドに足をなげてみる。
ここに来てよかった、ふとそう思う瞬間がある。
どれだけの光景を、これから見る事ができるのだろうか。

輝く冬の池

季節は巡り巡る。
やがて遠くない日に雪も消え去り、柔らかい空気がこの森に春を運んで来るのだろう。
森の中に咲き乱れる花々、新緑が宿す艶やかな光が待ち遠しい。
黒蔵の中で物思いに耽っていると、近くでまた鹿の声がする。
まるで、こちらを出迎えてくれている様だ。
彼らの声を聞くと、森にいるという実感が湧いて来る。
さあ、旅の続きを始めようか。
再び靴を履いて、深呼吸をする。
黒蔵のエンジン音が、静寂を壊して響き渡った。

春の森を目指して。

黒蔵と雪の林道
雪が積もる木
霧と、雪降る森