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15.08.25

【vol.38-1】日本再発見ジムニー探検隊>>大地の芸術祭[越後妻有]

皆さんは新潟の十日町市、津南町で3年に一度、現代アートのイベントが行われているのをご存知だろうか。
「大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ」がそれである。
コシヒカリなどが採れる恵みの大地と、現代アートの融合は想像以上に圧巻だ。
今回はかねてから訪れてみたかったイベントをレポートしたい。

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アートによって再生された越後妻有

越後妻有地方は信濃川沿いに広がっており、肥沃な土地ゆえに多様な農作物が採れる。

越後妻有とは十日町市、津南市、川西町、松代町、松之山町、中里村の約762㎢の地域を言う。ご存じの方も多いと思うが、越後湯沢や塩沢など上越地区に比べるとスキー場が少なく、観光資源の少ない場所でもある。一方で自然が豊かで、よく手が入った里山は、まさに日本の原風景そのものだ。

1990年代に広域の活性化と連携を目指した「ニュー新潟里創プラン」が制定され、それに沿って当時の新潟県知事がアートディレクターの北川フラム氏に、大地の芸術祭総合ディレクターが任された。北川フラム氏は上越市出身で、「ベネッセアートサイト直島」や「瀬戸内国際芸術祭(vol15.参照)」などのディレクションも手がけた人だ。

2000年に第一回目の「大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ2000」が開催され、以降、3年に一度アートの祭典が北の大地で行われている。今年で第5回を迎える同イベントだが、4回目からアート好きで有名なベネッセ会長の福武總一郎氏が総合プロデューサーとして参画。ますます盛況なものとなり、その年は37万5311人もの来場者が訪れた。

それを考えると大変な経済効果であり、過疎に悩む農村地域の活性化という目的な達成されたと言ってもいい。瀬戸内国際芸術祭も然りだが、北川氏にしても福武氏にしてアートイベントの主眼は「人間の自然への回帰」。かつて僕はご両名のインタビューをさせていただいたことがあるが、アートという人間の力と自然の力が融合した時の力が、人間に元気を与える…というようなことを言っていた。

実際、このようなイベントに参加すると自分自身が活性化しているのが分かるし、ボランティアなどで活躍している地元の老人が生き生きとしているのが印象的だ。

さて越後妻有地区は信濃川沿いに広がる農村地帯で、実に広域だ。冬は恐ろしく雪深く、クロカン四駆ユーザーたちがスノーアタックに出かける秋山郷も同地区に含まれる。夏は水田が青々して美しく、うまい米ができるだけあって水が美味い地域でもある。

江戸時代を彷彿させる町並みに寄り道

塩沢の牧之通り。国、県、住民が一体となって町作りを行った。

東京から関越道に乗り、ジムニーは北にひた走る。前橋くらいまで近く感じるが、赤城を越えるとさすが遠い。谷川連峰への長い坂を越え、関越トンネルを抜けると、そこはようやく越後の国。皆さんもおそらく食べているだろうコシヒカリの産地だ。

家人の情報で、塩沢におもしろい町があことが分かった。越後妻有地方に行くには塩沢石打ICで下りてひと山を越えて西に向かうが、ちょっと寄り道をしていくことにした。向かうは塩沢駅近く。

ここに「牧之(ぼくし)通り」という商店街がある。店の一軒一軒は地方の商店街にありがちなものだが、ここの特徴はその町並み。まるで江戸時代の宿場のような光景が広がる。

かつての塩沢町は三国海道の宿場町として、大層な賑わいを見せていたという。またこの地は、国の重要無形文化財やユネスコ無形文化遺産となっている伝統的工芸品「越後上布」「塩沢紬」など織物の産地でもある。

1988年にこの場所を「塩沢らしい町並みにしよう」というワークショップが開催され、以後地元住民と県や国が一体となって町作りが行われてきた。その結果、建物のセットバックや建築のルール設定などが行われて、2009年に現在の牧之通りが完成したのだという。

雁木が続く商店街はいかにも雪国。アーケードと違って陰影が美しい。

ちなみに「牧之」とは、江戸時代に雪国の文化を紹介した書物「北越雪譜」を記した鈴木牧之から取ったのので、鈴木牧之がこの地の出身であることに由来している。

商店街は江戸時代風のエクステリアが採用されており、商店から民家まですべて統一されている。建物は近代的なデザインでも、通りに面した部分は映画セットのように宿場町風のものが被せてあるのだ。

通りの部分には、雪国らしくすべて雁木になっている。「雁木」とは積雪時や雨天の時でも歩行者が快適に歩けるようにした、いわゆるアーケードだ。アーケードと違うのは建物から直接張り出したひさしが連続していることであり、日本人の協調性を顕した設備とも言える。

地方の商店なので、これといった店があるわけではないが、やはりきれいに整えられた町並みは気持ちがいいものだ。また電線がまったくないため、開放感がある。

この商店街の中に清酒「鶴齢」を造っている青木酒造がある。ここが醸す「雪男」という酒が、また美味い。辛口の酒が好きな方は、ぜひお取り寄せで試していただきたい。今回はクルマなので、この雪男ブランドの「ユキオトコサイダー」なるものを飲んでみた。

青木酒造が使っている仕込み水で造ったサイダーで、これが甘くなくて美味。雪男には焼酎もあるので、このサイダーで割って飲めばきっとおいしいはず。

ちなみになんで「雪男」という名前を付けているのかというと、これもまた鈴木牧之の北越雪譜に由来している。この書物の中で「異獣」という項があって、そこに雪男が登場する。その雪男は真っ黒な毛むくじゃらで、山でにぎりめしをあげるとお礼に荷物を担いでくれるのだという。おそらく江戸時代には、こうした山の民が住んでいたのだろう。実に楽しいハナシである。 

越後の自然に溶け込んだアートを巡る

大地の芸術祭のパスポート。これですべてのアート作品を鑑賞することができる。

さて、大地の芸術祭の開催期間は2015年7月26日から9月13日まで。つまり、この記事を読んでいだだいた後に行っても間に合うということだ。

アート作品は400点弱入り阿あって、そのひとつひとつでお金を払って観ることもできるのだが、それではいくらお金があっても足りない。3500円でパスポートが売られており、これを使えば、会期中は全作品を鑑賞することができる。ただし1作品1回のみの鑑賞が可能だ。

パスポートの中は各作品と番号のマス目があり、作品を観たらスタンプを押す。すべてのスタンプが揃うと抽選で商品が当たるお楽しみもある。

ちなみに越後妻有地方は広大であり、そこに散らばっている約200の作品を巡るのは大変だ。各作品を巡るコミュニティバスなども用意されているが、もちろん僕らはジムニーで巡りたい。越後の集落をジムニーで走っていると、それはまさに探検気分。また農村地帯だけあって道が狭い場所も多く、ジムニーサイズがまさにうってつけなのだ。

作品を巡る探検は、まさに大人のスタンプラリー。巡っていると地元の違う魅力を発見することになる。

ちなみに、全作品を効率よく巡っても、コンプリートするには3日はかかるらしい。そこで僕が活用したのは、オフィシャルHPに出ているモデルコースだ。いくつかの条件ごとのコースが出ており、これをベースにすると効率よく主だった作品が観られる。

もちろん、ここに出ている作品の側に違う作品があるので、オフィシャルマップを見ながらコースを決めていくといいだろう。僕からのアドバイスとしては、大地の芸術祭のガイドブックを事前にチェックしておくこと。作品内容を確認しておけば、興味のないものは飛ばすことができるし、逆に観たいものをコースに取り入れることができる。ちなみにガイドブックは地元のコンビニや書店に売られているので、向こうで入手できる。

ちなみに、地元の店や宿、観光協会でもらえる観光ガイドも入手したほうがいい。アートだけでなく、鄕土料理や温泉など探検を楽しくしてくれる情報を得ることができる。

芸術祭の合間に立ち寄りたいスポット

山間に広がる星峠の棚田。棚田こそ人間の知恵が造ったアートだ。

アート探検の途中で見つけた、おすすめスポットを1カ所ご紹介しよう。まずは「星峠の棚田」。ジム探ではお馴染みのジャンルだ。松之山にある星峠の棚田は松之山地区にあり、2009年の大河ドラマ「天地人」のオープニング画面の一部に使用された。日本の棚田百選には選ばれていないが、「にほんの里百選」には入っている名所だ。

夏は青々と稲が茂っているが、田植えが始まる5月前は水が張られ、まるでいくつもの鏡が並べられているようで美しい。またこの辺りは春先に雲海となるため、運が良ければ雲海と棚田のコントラストが観られるだろう。同じ場所でも春、夏、秋、冬とまるで異なる顔を見せる星峠の棚田は、日本一の棚田の誉れも高い。

まあ、棚田はこれと言って何があるわけではないが、灌漑技術の進んでいなかった昔に人々が考えた素晴らしい知恵のひとつだ。棚田を造ることで麓の山村への洪水被害を防げるし、生物多様化によって人間が居住する地域の環境保全もできるという、まさに里山のコアとなるものだ。

星峠の棚田は、昔はもっと田んぼの枚数があってまさに千枚田だったが、時代とともにまとめられて現在の姿になっている。僕が訪れた時も老女が農作業中で、こうした里山を守っているのは、もはや若者ではなく老人達なのだと痛感させられた。まあ難しいことは抜きにして、棚田が美しいのでおすすめの場所だ。行く時間帯は朝と夕。

松代(まつだい)城跡に建つ模擬天守。戦国期の砦なので、おそらく櫓のようなものはなかっただろう。

もうひとつは松代(まつだい)駅からジムニーで10分くらいのところにある「松代城跡」だ。松代城は築城主や築城年が不明で、一説によると南北朝時代からあると言われている。松代城山の山頂付近の東西約80m、南北約150mほどの縄張りで、実にコンパクトな城だ。

これだけだとあまりそそる感じがしないが、戦国期に上杉謙信が整備したとなれば別だろう。この辺りには直峰城、犬伏城、琵琶縣城などが点在しているが、これはすべて上杉謙信が三国街道に出るための拠点であり、また三国街道を通過する敵方を監視するためのものだった。

この松代城もそのひとつで、上杉景勝の代に会津に移封になった際に廃城となったとされる。城は山の尾根を利用して階段状になっており、三の郭には趣味の悪い模擬天守が建てられているが、当然ながら当時はこのような櫓はなかった。

三の郭から草の生い茂った遊歩道を上ると、二の郭と主郭に行ける。遺構はそれほどないが、山城らしくいくつかの堀切が斜面に残されている。松代周辺のアート作品群を巡っていると通過するスポットなので、城好きは寄ってみるといいだろう。模擬天守辺りから見るパノラマはなかなかのものだ。

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