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14.10.24

【vol.29】日本再発見ジムニー探検隊>>博物館めぐりで日本の研究開発を知る [筑波]

筑波研究学園都市という街は、実に不思議なところだ。筑波山の麓の広大な平野に、研究機関や大学だけが集まっているのである。一体、ここで何が行われているのかを知る人は多くないだろうと思う。そんな筑波を調べていたら、意外と多くの機関が自らの仕事や研究成果を公に見せている博物館がいくつもあることが分かった。今回はそれらの博物館を巡り、筑波研究学園都市で何が行われているのかを探検しよう。

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宇宙ファン垂涎の博物館

日本が世界に誇る宇宙技術を間近に観られる「筑波宇宙センター」。

1950年代に人口過密となった首都東京。そのため政府は首都機能の一部を地方に移転させる計画を練った。その中には大学や研究機関を移転させるというものもあった。いくつかの候補地の中で、条件が合致したのが筑波であった。筑波は霞ヶ浦からの水供給が容易で、平坦な地盤、土地買収が容易などというファクターが重なり、移転場所に決まったのである。

1967年に6省庁36機関の移転が閣議で了承され、1980年に機関の移転が終了した。1985年には筑波の認知度アップと民間企業の誘致を目的とした「科学万博(つくば博)」が開かれ、多くの来場者を集めた。

2012年の統計によると、筑波研究学園都市には約300の研究機関・企業と20185人の研究者が集まっている。まさに筑波は日本の頭脳なのである。集まっている企業を見てみると、風呂好きの僕には「バスクリン研究所」が目に止まった。ここでは毎日何回風呂を沸かしているのだろうか。

僕が今回の探検で最も楽しみにしていたのが、宇宙ファンの聖地である宇宙航空研究開発機構、通称JAXAの本拠地「筑波宇宙センター」があるのもここだ。かつては見学に面倒な予約が必要だったのだが、一般見学用の施設ができてからは予約なしでも見学ができるようになった(月曜日など一部定休)。

奇しくも10月7日に最新の気象衛星「ひまわり8号」が打ち上げられたこともあり、どうしてもこの施設が観たくて、急遽筑波に向けてジムニーを走らせた。やはりひまわり打ち上げというトピックもあってか、筑波宇宙センターは見学客で盛況だった。

「きぼう」の実験機。これと同型のものが軌道上にある。

さて、筑波宇宙センターにはスペースドームとプラネットキューブという二つの見学施設があるが、目玉はスペースドームだ。ここにはJAXAが宇宙開発で製作した実験機が展示されているのである。中でもイチオシなのが「きぼう」と「こうのとり」である。「きぼう」はご存じの通り、国際宇宙ステーション(ISS)に接続された日本の実験棟。2006年から3回に分けてスペースシャトルで宇宙に運ばれた。開発は三菱重工やIHI、川崎重工、NEC東芝など日本の蒼々たる技術企業が参加している。

ここで星出さんや若田さんが長期滞在したことは記憶に新しいが、そのきぼうと同型の実験機の内部を見学することができる。中に入ると、様々な機械がぎっしり詰まっており、人間の居住スペースはごくわずかだ。若田さんは4か月半もここにいたらしいが、僕の仕事場のほうがちょっとだけ広い。まあ宇宙に行けるなら三畳間でも我慢できるが。

ここにはその他に、きぼうに設備や物資を運ぶ無人補給機HTV「こうのとり」や「はやぶさ」「かぐや」などの実験モデル、つまり本物を観ることができるのだ。予約すれば管制センターや宇宙飛行士訓練施設などを見学するツアーに参加することも可能だ。すべて無料なので、一度は日本最高の技術を間近で観てほしい。日本の底力に感動するはずだ。

地味におもしろい実験植物園

筑波実験植物園の温室。世界中の植物が育てられている。

次に訪れたのは国立科学博物館「筑波実験植物園」だ。ここは上野にある国立科学博物館の分園で、同博物館が植物の研究を推進するために建てた施設だ。

入場料310円が必要だが、まあ物は試しで入ってみることにした。園内は「常緑広葉樹林」や「温帯性針葉樹林」など生態や種類などで植物が分けられ、12のエリアで展示されている。展示されていると言っても、まあ生えているわけで、そこに展示用の看板などが付けられている。

とにかく中は広大で、つぶさに観ていたら半日は必要だ。まあ、散歩にでも来たと思って入園すればいいのかもしれないが、生えている樹木を観ていると意外に面白くなってくる。園内には精魂を込めて手入れしている職員や研究者がいて、観光植物園とは一線を画していることが分かる。

水生植物のエリア。春から初夏にかけては様々な植物の花が咲くはずだ。

中でも面白いのが温室で、季節はもう秋だというのに花が咲いている植物まである。バナナやカカオなどお馴染みの植物が果実を付けていたが、こうして改めて観るとこれを最初に食べようと思うのは、ビジュアル的にはかなりの勇気が必要だ。やはり熟していい香りがするから食べようと思ったのだろうか。まあ、カカオなどは今でこそチョコの原料だが、最初は強壮剤・興奮剤として使われたようだが。

サボテンコーナーでは実験中の植物が多くて、実験中の札が砂に刺してある。育てて観察するのが実験だと思うが、その生態を知ることで、どんなことが分かるのか非常に興味深い。サボテンは砂漠化する土地で食料問題を解決する植物とも言われているから、そんなことも調べているのかもしれない。

この施設、とにかく観るものは植物しかない。植物に興味のない人には、ただの広い公園でしかない。しかも広大なのに、トイレや自動販売機などの設備がほとんどないのだ。ということから考えても、この施設は真面目に植物たちと向き合う場所なのである。一説によると植物はコミュニケーションを取る能力を持っているらしいから、真剣に向き合えば話ができる、かもしれない。

地図と測量のA to Zが分かる博物館

地図と測量の科学館には地図にまつわる様々な展示品がある。とくに古地図はおもしろい。

国土地理院と言えば、カーナビを使ったり登山をしたりする人にはお馴染みだ。日本を正確に測量して地図を作る官庁である。国土地理院の地図帳には、高校生の時にお世話になったものである。いま考えると、あの地理という授業は何だったのだろうか? 日本列島の形はおおまかに覚えたものの、未だに島根と鳥取の位置関係がわからない。なんてことを国土地理院に悪態づいても仕方がない。

国土を知るというのは施政において重要であり、同時に国防上も大切なことだ。だから明治維新以降は軍と密接な部署が担当し、途中からは陸軍が管轄していた。戦後は陸軍から内務省に移管され、1960年に建設省(現在は国土交通省)の関係機関である国土地理院となった。元々は目黒にあったが、1979年に筑波に移転している。

その国土地理院の敷地内に1996年に造られたのが「地図と測量の科学館」だ。地図と測量について国民に広くしてもらうことが目的で設置されたのだが、まあ省庁予算が余っていたのだろう。入場は無料ということなので、遠慮なく拝見することにした。

遠い星からの電波をキャッチして地球の地形を知るVLBIのアンテナ。

敷地に入ると、いきなり目に飛び込むのがVLBI(超長基線電波干渉法)のアンテナだ。VLBIとは何十億光年も彼方の星から飛んでくる電波を地球の複数箇所に設置したアンテナでキャッチし、その到達時間の差を精密に計算して世界を計測するというものだ。日本には筑波の他に4箇所のアンテナがあって、世界の中の日本を正確に測っているんだという。まあ、超ダイナミックなGPSみたいなものだ。

やたら礼儀正しい守衛さんの前を通り、建物の中に入ると、床面には巨大な日本地図が描いてある。3D眼鏡で見ると立体的に見えるらしいが、もしやこれは典型的なハコモノ行政…という嫌な予感。メインの展示室に入ると、意外やその不安は払拭された。展示は非常に地味だが、江戸期からの測量と地図の歴史がおもしろく展示されている。

中には映画「剱岳 点の記」に出てきた測量用の櫓などもあった。また伊能忠敬以前の日本地図などもあり、当時の日本人が想像以上に優れた測量技術と世界観を持っていたことが理解できる。江戸の地図などもあって、工学系の人でなくても十分に楽しめる展示となっている。

普段、何気なくカーナビやスマホの地図を使っているが、実はたくさんの人の努力と技術によって、僕ら迷わずに目的地に行けるのだ。この博物館を観ると、改めて地図を作ってきた人々の偉大さが認識できるはずだ。

ここからターミネーターに発展する!?

ターミネーターは日本で造られていた? サイバーダイン社のショールームにはこんなものも。

日本はロボット技術においても、世界随一のノウハウを持っていることは周知の通りだ。ホンダのASIMOをはじめ、今や鉄腕アトムの世界は夢でなくなった。ロボットは人間の味方にも敵にもなり得ると、多くのSF作品で描かれたが、その代表作が映画「ターミネーター」だ。シュワちゃんとジェームズ・キャメロン監督の出世作だが、この中で世界を滅亡に追い込んだという設定になっているのが、「サイバーダイン」というハイテク企業だ。

この「サイバーダイン」が、なんと実際に筑波にあることが分かった。同社は「HAL(Hybrid Assistive Limb)」というサイボーグ型のロボットを実用化した。サイボーグ型と言っても、いきなりT-800型のような人型ではない。ロボット工学を使ったパワードスーツみたいなもので、怪我や病気などで歩行ができなくなった人々をサポートする医療機器だ。

現在実用化されているのは、人間の身体機能の一部をロボットが代わりに行うといったものだが、全身の機能を強化する全身用や、災害地で力を発揮する災害地用などが研究開発されているのだという。災害地用などは、もはや小説「宇宙の戦士」に出てくるモビルスーツそのもののようなデザインとなっている。

さて、ショッピングモール「イーアスつくば」の2階に、このサイバーダインの製品を展示している「サイバーダインスタジオ」がある。入場は無料ということなので、早速未来のターミネーターを観に行ってみた。

サイバーダインスタジオに展示されているHAL。残念ながら一般人は体験することができない。

だが実際に展示ホールに行ってみると、「何じゃこりゃ」。ワケの分からないコンパニオンロボットやらターミネーター、アイアンマンの等身大フィギュアが飾られており、街にあるホビーショップよりもひどい。展示をするものがないなら、映画のフィギュアのほうが飾らないほうがマシだと思うのだが、同社は真剣にこういう方向を目指しているというアピールなのか。

さて件のHALだが、これだけで十分でカッコいいと思う。やはり本物は映画と違ってチャちくない。全身用などは、ちょっと毛穴が逆立つような雰囲気である。もちろんこれらは平和目的に造られたわけだが、改造されて軍事に流用されたらと思うと、まんざらターミネーターの世界もSFではないような気がしてくる。

スタジオの奥にはリハビリ室のような部屋があって、HALを装着してのトレーニングやデイサービスが障害者に対して行われているようだ。こうした技術を使って、そのテクノロジーを競うオリンピックのようなものが行われたら面白いかもしれない。

官庁が研究している技術が分かる

地質資料館には膨大な量の化石が収蔵・展示されている。

多くの人々はその存在さえも知らないが、ここ筑波には産業技術総合研究所というのがあって、その一部門に地質調査総合センターというのがあるのだ。まあ名前を聞けば“地質を調査しているんだなぁ”とある程度は活動が想像が付くが、なんで行政機関で地質を調査する必要があるのか、草民の僕にはちっとも理解できない。

同センターのホームページによると、地質を調査することで国土の利用保全、自然災害対策、資源開発などにデータが役立てられるらしい。なるほど、それは重要な仕事である。特に火山国で島国の日本にとっては、自然災害対策と資源開発は極めて大切だと言えよう。

そんな地質調査総合センターが、“地球と人のかかわりを知ってもらう”目的で造ったのが「地質標本館」だ。独法が造った予算集めのためのハコモノという気もするが、噂ではここにはとてつもない数の化石があるらしい。実は僕は化石好きであり、20代の一時期に日本各地で鉱石・化石を掘るストーンハンティングにハマったことがある。

化石がおもしろいのは、現代には滅亡してしまった生物が石となって目の前に現れることだ。恐竜の時代やそれ以前に、これら生物が地球上で生き生きと暮らしていた様子を考えるとワクワクしてこないだろうか。まあ、僕が発掘できたのは小さな貝や植物がせいぜいだったが。

地質標本館は4つのエリアに分かれており、その内の3つは主に地質や地球の構造に関するものが展示されている。地球には興味があるが、地質学で言えば温泉以外はとんと縁がない僕だが、アクビが出るのをこらえながら3つのエリアをとりあえず観覧する。

でお待ちかねの4つめが岩石・鉱物・化石エリアだ。展示室に入ると、まずその化石の量に度肝を抜かれる。なんせ長い間、莫大な予算で日本各地を掘ってきたわけだから、そのサンプルたるや半端ではない。小さい貝なんて“スライム”みたいなもんで、ザコキャラだ。写真のアンモナイトなんて、直径60cmくらいはありそうだ。寿司にしたら何人前だろうか。

アークテリクスのマークみたいな始祖鳥の化石もあり、上野の博物館などよりも充実している。残念ながら、閉館ギリギリの時間に行ったのでゆっくりと観ることができなかったが、地球の記録である化石はやはりおもしろい。

さて、地質標本館を出るとすぐ向かいにあるのが、産業技術総合研究所が開発した様々な技術が展示されている「サイエンススクエアつくば」だ。そもそも産業技術総合研究所という機関が何をしているのかが、ここに行くと分かるらしい。中に入ると、やたら愛想のいいおばさま2人が出迎えてくれる。解説オーディオを貸し出してくれて、展示の前で説明が聞けるらしい。なんだか見たのことのない機械で、これもここが開発したようだ。

さて、展示は想像以上におもしろく、超小型のインクジェットプリンターやトンボ玉を造る鉛フリー工芸ガラスなど、僕も知っているモノがいくつかあった。中には将来「光学迷彩」に転用できそうな装置などもあって、なかなか興味深く見学することができた。

どうも理解できなかったのは「直径1㎝の打ち上げ花火」というもので、まあ技術はすごいのだが、一体これはどんな製品に転用できるのだろうか。まさか、事務所のデスクトップで打ち上げ花火…ということもあるまい。

多くの技術というのは民間企業が考え出すものだと思っていたが、こうした公の機関が結構技術をリードしているのだと、改めて理解できた。今回、こうして筑波のいろいろな博物館を観て回ったが、博物館に感銘を受けたというよりは、日本では僕ら知らないところでいろいろな研究開発が行われ、様々な技術が生まれているということに感動した。

日本のテクノロジーが衰退していることを悲観的に見ている向きもあるが、「まだまだ日本もいけるんじゃない?」と思えてくる。僕はご覧の通り文系人間なので、こうした研究開発する技術者たちをすごくリスペクトしている。彼らが頑張ってくれるおかげでより正確な天気予報が聞けるし、電子レンジでパスタが温められるわけだ。日本のすべての頭脳たちに感謝、だ。

<文・写真/山崎友貴>

筑波探検ギャラリー

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