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ON THE STREET BURGER
VOL.030
七年目の気づき~PALMETTO [東京・深沢]
七年目の気づき~PALMETTO [東京・深沢]

ここは東京・世田谷。
どの駅からも離れた住宅街にある一見目立たぬレストラン。
その正体は、どの料理もボリューム満点なアメリカン。人気はもちろんバーガー......

自由が丘駅前のAPIOコンプリートカーTS7、ハンバーガー号

アピオ社が誇る最新鋭の情報収集システムをもってしても、その存在を察知できない店がある。……実はたくさんある(笑)。今回紹介する店もそのひとつ……。


どんなに科学技術が進もうとも、最後はやはり"足"である。実地の聴き込みである。そして、人が人へと伝えるうわさ・評判である。それらが最も確かで間違いのない情報である。


心から人に「薦めたい」と思うその気持ちは、何かを「売りつけよう」「買ってもらおう」という気の欠片もない、儲けや損得の勘定を一切差し挟まない、まさに掛け値のない、純粋に心より湧き出たものである。そこにこそ"真"がある。"実"がある。

70年代西海岸の光と影

徒歩20分の最寄り駅・自由が丘から潜入調査開始

この店、東京世田谷・深沢(ふかさわ)の「PALMETTO(パルメット)」のことを、私はオンザロードGAO隊長から聞き、GAO隊長は親しい自動車屋"秋山さん"から薦められて知った。そんな機会が一度も無かったがために、私はこの店の存在を7年間、全く知ることがなかったのである。アマゾンの未接触部族のような話である。世田谷なのに。


単にきっかけの問題だけでなく、もちろんそこにはそれなりの理由がある。まずホームページが無い。ビラやチラシを配るのが「好きじゃない」。場所は最寄り駅、東急東横線自由が丘駅から徒歩20分、同大井町線尾山台駅から19分の住宅街の只中――これでは発見は難しい。


おまけに店構えがなかなか地味である。「入りづらい」「何屋かわからない」「6年経ってやっと入れたよ」などとよく言われるという。ステルス性の極めて高い一店である。


入ると店内もなかなかシブい。はじめ私は、父親が云十年間営業していた洋食屋かビストロの跡を息子が継いで、内装をそのままにハンバーガーなど出すイマドキの店に商売替えしたのか――と、そんな想像をした。そう思わせるに十分な古めかしさと、まだ若い店長に似合わぬ落ち着きがこの店にはあるのだ。


店長・木村真也さんがパルメットを始めたのは2008年。26歳の時。それまで横浜は青葉区・市が尾の名店「Bubble Over(バブルオーバー)」とその姉妹店「TROUBADOUR(トルバドール)」に合わせて約8年勤めていた。


木村さんとバブルオーバーの出合いが面白い――。

「ボビーさんのカヌー教室」なる夏の特別行事が、店のすぐ隣の"ボビーさん"の敷地で毎夏開かれていて、木村さんも幼稚園の頃からよく参加していた。その参加ついでに母親に連れられてよく行ったのがバブルだった。記憶では一番最初に食べたのは「BLTサンドイッチ」だったと、また幼稚園児らしからぬことを言う木村さん。


以来、高校生までずっとバブルに通い続け、高校卒業とともに就職。「将来自分で店をやりたいので働かせてくれ」と、面接の時点で独立志望を宣言しての入社だった。


バブルオーバーには「アメリカというものを教えられた」。サーフィンを知り、ファッションを知り、料理を知り、そして店でしょっちゅうやっていたライヴを通じて多大な影響を音楽について受けた。ある種"前時代的"なパルメットのちょっと重たく暑く、ずっしりとしたこの落ち着きは、つまりバブルオーバーから受け継いだ70年代西海岸のソレなのである。なるほど、それでスッキリ合点がいった。


そんな陰影のある店である――。

美術専攻

そんな横浜・青葉区育ちの木村さんが都内・世田谷に店を出すようになったのは、駒沢公園脇の名店「バワリーキッチン」を手伝った際に親しくなった仲間たちが深沢界隈に住んでいたのがきっかけ。今のこの場所は、前は40年続いた古本屋だった(途中一時花屋)。


枯れた花と残されたボロッボロの本棚があるきりのスケルトンの店内を同級生の宮大工、塗装屋、水道屋、電気屋などに手伝ってもらい、工務店を入れずに、みんなしてイチから造った。工事は3、4ヶ月にも及んだという。


低い天井に下がるステンドグラスのランプシェードはどれも70年代のもの。黒いファブリックを張ったボックスシートと、その横の窓の高さ・幅・配置の妙。この窓、実は壁全面一枚のガラスで、コスト節減のために壊さず、内と外から壁板で挟んでいるという苦心の作。


実は木村さん、高校は美術専攻のコースがある学校へ進学。1時間目から5時間目まで毎日美術に関する授業ばかりを受けていた。だから内装工事はお手のもの。イヤでも目を引くメニューのイラストは、オープン当初は友人が描いていたが、最近はそのテイストを引き継いで木村さん自身が描いている。

周囲からは「ハンバーガー屋」と呼ばれているが、パルメットはアメリカンレストラン。人気メニューはアメリカンビーフのステーキやミートボールスパゲッティ、ピッツァ、ハンバーグ。自慢は「このソース売ってもいいんじゃないか」と言われるほどにソースがおいしい「BBQポーク」2,500円。いま押しているのは「ベイビーバックリブ」1,900円、「チキンタコス」1,600円。どのメニューもことごとく量が多い。「こんなに量出す店ない」「こんなに多いと困るんだけど」と言われ続けるも、そこを曲げずに7年間……。


それでも結局の一番人気はやはりハンバーガー。店内全5品。サーモンのサンドイッチ1品。本日は"基本"のチーズバーガー1,300円。

いつかフロリダへ

上下重ねないオープンスタイルでサーブ。パティはUSの赤身に和牛の脂を混ぜた150g。もも肉中心。これをグリルパンでグリル。売れ行きの好調を受けて「鉄板を入れようか」とも考えたが、「チキン料理などフライパンで調理するメニューが好きで来て下さるお客様もいらっしゃるので」と、いまだ導入せず。味付けは塩コショウのみ。


バンズはバブル&トルバの頃からの付き合いの、横浜は港北ニュータウン・中川の卸専門店「ヴァルムの森」作。「あまり気取らないクラシカルな」ものを目指した、スポンジ質の平たくやわらかなバンズで、表面ゴマだらけ。


おだやかな塩気とコゲ味を持ったパティに、チーズのゆるいミルク感と生のオニオンの辛味が活きている。やわらかな、やさしい口当たり。


店名は「【】ルメット」と頭にアクセント。ノコギリヤシという米国南部でよく見るヤシの木の一種のこと。去年、さるご婦人が訪ねてきて、「自分はフロリダ州"Palmetto"の学校に通っていたことがある。そのパルメットの町にあった小さな店と、写真で見るこちらの店の雰囲気がよく似ていたので、気になって来てみた」という。

そう言われると今度はこっちが気になる……一体どんな町だろう……行ってみようか……いつ行けるだろう……と、かつて毎年アメリカへ行くようにしていたという、南部大好きな木村さん。


§§


という次第で、以上がレーダーから漏れて長らく発見されなかった店のあらましである。「パル【】ット」でなく「【】ルメット」。「デリシャス」やなくて「デリーシャス」。恵比寿「Hummingbirds'hill(ハミングバーズヒル)」のシェフやスタッフはバブルオーバー時代の同僚。

< 文と写真:松原好秀 写真:GAO NISHIKAWA >

PALMETTO [東京・深沢]

― shop data ―
所在地: 東京都世田谷区深沢3-4-1
アクセス: 東名高速・東京ICから11分、
      第三京浜道路・玉川ICから5分
駐車場: 近隣にコインPあり
TEL: 03-3703-9399
URL: https://www.facebook.com/pages/palmetto/
オープン: 2008年8月12日
* 営業時間 *
月~金: 12:00~15:00, 18:00~23:00(22:00LO)
土日祝: 12:00~15:00, 17:00~23:00(22:00LO)
定休日: 火曜日(要確認)

百日紅の花咲く自由が丘駅前にて
東深沢商店街「エーダンモール深沢」。この日は定休日の店が多く、『荒野の用心棒』の宿場町のように静まり返っていた
ステルス性の高い店舗外観
店内よりハンバーガー号。駐車は近隣のコインPへ
このモサッとした薄暗がりな感じは、まさに西海岸!
ステンドグラス製の照明はどれも70年代の製品
ビールは樽生のほかに米国産ほかボトルビールが6種類。USビーフのステーキなどにあわせワインもよく出る
イラストが印象的なメニュー
デリバリーのために購入したホンダジャイロ。ポスティングなしで始めるという
店長木村真也さん。意外や高校時代は美術専攻
木村さんの以前の勤め先、ここが噂の横浜・市が尾「バブルオーバー」。やはり駅から離れた住宅街にある
駒沢公園にて、黄昏のハンバーガー号