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14.10.01

【Vol.18】都内でいま最もアツい店~MUNCH'S BURGER SHACK [東京・三田]

都内バーガー店の急先鋒。
その人気の源は渾身のパティ作りにあった。
店主柳澤さんが削るものは肉に非ず、彼の"命"である

芝浦の倉庫街とジムニー

「ハンバーガー号の秘密の出入口はアノ店ではないか」という噂が語られるのを、都内某店でハンバーガーを食べている折、ふと耳にした。


何でも深夜、凄まじい勢いで駆けてゆくのを「見た」という目撃談まであるのだという。勤め帰りと思しきスーツ姿の3人が大真面目でそんな噂話に興じるのを隣の席で聞いていて、思わず笑ってしまった。

肉の作業場とウォークイン冷蔵庫

その店ならよく知っている。東京・三田(みた)の「MUNCH'S BURGER SHACK(マンチズバーガー・シャック)」は、知っているどころか、もう4年の付き合いになる店だ。だが言われてみれば、なるほどその通り、そんな噂もまんざらでないくらい、確かに面白い造りの店なのだ。折角なので今回は、その変わった店内を"秘密基地"目線で見てみることにしたい。


§§


まず店は歩道より石段を1段、黒く塗った鉄階段を11段、計12段上がった位置にある。入口脇には3色全てが常に点灯した信号機。奥に長い店内を進むと、打ち放しのコンクリートの床の上に立ち飲み屋のそれを思わせるハイテーブルが3台。奥の壁にはカウンター。それらの下にアンティークなデザインのスツールが20脚収まっている。


窓には木製のブラインド。天井からは黒い傘のペンダントはじめ複数のライトが卓上に強い光を落しているのが印象的だ。店主柳澤さん夫妻がNYを旅した際に見たもの、得たヒントをもとにデザインされた。


ホールと並行してキッチン。その延びる先にある、ガラスで二方を囲った一角は、柳澤さんが肉をさばく専用の作業場である。ブロックから包丁で切り出した肉を挽かずに刻み、繊維を潰すようにハンマーで叩いて毎日パティを作っている。

ハイテーブルが3台。奥の壁にはカウンター。アンティークなデザインのスツールが26脚収まる

肉屋に任せた時期もあったが、納得がゆかず、結局創業以来ほぼ一貫してこの作業を続けている。仕込んだ量の最大は650食分。パティ1枚100gとして優に65kgを超える肉塊と格闘したことになる。腱鞘炎など日常茶飯事。まさに骨身を削る思いだ。


その作業場の横に見えるオレンジ色に塗られた一画。ここに階下へと下る階段がある。降りるとそこにはもうワンフロア――そう、この店は上下二階建てなのだ。「中二階」と「半地下」と言う方が正しいかも知れない。しかもそのことが外観からは判断できない造りになっている。


地下は背もたれが付いた椅子ばかり16席。赤レンガの壁には鏡が二枚。この空間をこれほど如実に、かつ興味深く映し出す鏡の用い方もそう無いだろう。『燃えよドラゴン』のハンの要塞島を思わせる秀逸さだが、クルクル回転もしなければ、マジックミラーでも無い。だが、この壁の向こうにはさらに「奥」が……。


中央のガラス戸の先にあるものは4つ。1.トイレ、2.在庫置き場、3.そして次がスゴイ。柳澤さんがコレを導入したことは当時、ハンバーガー界において一大「事件」だった……庫中に人が入って作業できる、プレハブ冷蔵庫である。ほぼ個人も同様の経営力においてこんな設備を持とうとは、特に23区、しかも山手線の内側ともなれば、限りある店舗面積がまずそれを許さない。肉用の作業場と階下のウォークイン冷蔵庫。これだけ見ても柳澤さんの並々ならぬ熱意のほどが知れよう。

屋台村のエース

マンチズバーガーは移動販売からそのキャリアをスタートさせた。「ネオ屋台村」に加入し、都内オフィス街でランチを販売。他の人気屋台を押し退け、瞬く間に屋台村のエース格に登り詰めた。人気の理由は神業としか思えないその提供時間の早さ。何十人並ぼうとも、客が注文を告げてから必ず"3分"のうちに商品の入った袋を渡すのだ。


ハンバーガーには「肉を焼く」という省略できない調理過程がある。たった"3分"で肉が焼けるのか……それこそが柳澤さんが屋台営業で鍛え抜き、研ぎ澄ました長年の勘であり、一秒でも早く提供できるようあらゆる無駄を削ぎ落とし抜いた結果なのである。


そんな屋台村のエースが固定店を構えたのは、創業から4年半を経た2011年1月。当初は移動販売も続けていたが、両立は難しく断念。スズキ・キャリーを改造した超高性能なキッチンカーも売ってしまった。

地下は背もたれ付きの椅子ばかり16席。上階と同じく都会的なデザイン

同じ町内の違う番地にあった最初の固定店に張り出すように建っていた小屋が「SHACK」の由来。今の店舗は'13年5月から営業。バーガーメニュー30数品。今回は10月1日より14日まで開催される、米国大使館主催のレストランイベント「TASTE OF AMERICA 2014」期間中のみ販売の限定メニュー、クリームスピナッチバーガー1,400円を。


骨身を削る思いで作った自慢のUSアンガスビーフパティは140g。鉄板で焼いて中はレアのイイ焼き加減。上にかかるはフェットチーネなどに使うアルフレッドソース。刻んだほうれん草とベーコンを加え、隠しにチキンストック。上からモッツァレラで蓋するも、今回はみごとに崩れ、かえってシズル感全開!

移動販売の名残、そして渾身の「肉」

二枚の鏡の間にガラス戸。その奥には柳澤さん自慢のウォークイン冷蔵庫

おなじみ新宿「峰屋」のハードなバンズをさらに店でトーストして、表皮がシャリッと音を立てて砕ける好食感。昨今の高値に関わらず惜しげなく挟んだレタスがパリパリと心地好い歯応えを利かせる。その下は混沌。グジャグジャ。そのメリハリ、対比もまた好い。


移動販売の頃の名残であるハッキリと濃い味付けが特徴。そこへ渾身の手作業による「肉」の主張が重なって全てがひとつになる時、生まれるその躍動感あふれる味わいからは、おいしさ云々を飛び越えて、ほとばしる柳澤さんの熱い思いが伝わってくる。その熱にほだされる一品。都内バーガー店でいま最もアツい男は、間違いなく彼だ。


§§


ガラス戸の先にある「4つのもの」の話がまだ途中だった。4つ目は鉄の扉。開けると半地下の駐車場に出る。駐車場の先は表の道路。


つまり、階上でハンバーガーを頬張っていた「オンザロード」坂上隊員が、私からの緊急出動のサインを受けて店の奥の階段を駆け下りると、地下は一見飲食店のホール風にカモフラージュされているが、実は扉2枚向こうには、いつでも出動できるよう万全の整備を受けたAPIOジムニーコンプリートカーTS7、我らが「ハンバーガー号」が待機しており、これに飛び乗る坂上隊員、エンジン音も高らかに、短いスロープに勢いを得て、一気に車道へ踊り出す……。

緊急出動するAPIOジムニーTS7「ハンバーガー号」――の想像図

面白い! みごとな想像力、流れるような出動シーンだ。この噂を考えついた主には是非とも「撃墜ステッカー」を進呈したい。この記事を読まれたら、必ず名乗り出られるよう。


して、噂の真相は……面白いのでこのままにしておこうと思う。柳澤さん渾身・入魂の一大ハンバーガー基地は、同時にハンバーガー号の秘密基地であるとも、そうでないとも……。

< 文と写真:松原好秀 写真:坂上哲也 >

MUNCH'S BURGER SHACK [東京・三田]

所在地: 東京都港区芝2-26-1 iSmartビル1・2F
アクセス: 首都高1号羽田線/11号台場線・芝浦JCTより6分
      都営三田線 三田駅歩5分
駐車場: 近くにコインPあり
TEL: 03-6435-3166
URL: http://munchs.jp/
オープン: 2006年4月27日(固定店オープン: 2011年1月31日)
* 営業時間 *
火~金: 11:00~15:00LO, 17:30~21:00LO
土曜日: 11:00~21:00LO
日・祝: 11:00~16:00LO
定休日: 月曜日(要確認)

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