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14.07.01

【Vol.15】いつか行った、あの団地へ~R-S [千葉・北小金]

松戸市の北東。柏市との境。
どの駅からも等しく離れた古き懐かしき団地と
不釣合いなくらい個性的な店の話。

小金原団地とジムニー

帰宅途中、普段使わない脇道をふと折れてみると、長らく近所に住んでいながら一度も見たことがないような、初めての風景に出くわすことがある。


例えばそこには商店、飲食店、酒場、スーパーマーケット、銀行までが揃っていて、普段自分が使っているのとはまるで別個の生活圏が形成されている。だがそこは駅前ではなく、鉄道も走っていない。思いがけない場所に、そこだけ不意に、店と人が集まっているのだ。


もう一度行ってみたいと思うが、しかし行けない。偶然行き着くことはあっても目指して行こうとすると、なぜだか辿り着かない――。もしそんな経験があるなら、この団地こそがソレだ。

45年

松戸の「田園調布」「ビバリーヒルズ」とも呼ばれた庶民憧れの新興住宅地だった

昭和39年(1964年)4月の着工。44年(1969年)5月より入居開始。小金原(こがねはら)の地名は43年(1968年)8月、公募により決定――。千葉県松戸市北東部の山林を切り拓いて造られた小金原団地は、松戸の「田園調布」「ビバリーヒルズ」とも呼ばれた庶民憧れの新興住宅地だったが、どの鉄道路線からも離れた中間点に在ることから、通勤通学にバスや車が欠かせず、ゆえにそれ以上の発展を見ることは無かった。


入居開始から45年。住民の高齢化と建物そのものの老朽化が進む、2014年――。だからと言って寂れた感じを受けなかったのは、訪ねた季節のせいもあるだろう。一帯はまばゆい緑に囲まれ、むしろいきいきと豊かに見えた。かつて羨望の的だった全11面・観客席付きのテニスコートは今もにぎわっている。

一帯は緑に囲まれ、いきいきと豊かに見えた

団地と言っても集合住宅ばかりではない。その周りには庭付きの戸建住宅が、美しく街路樹の植わる通りに面して整然と並んでいる。それこそ当時のテレビドラマに出て来そうな家々は、懐かしくもどこか明るい未来を感じさせる、開放的な気風を帯びて見えた。


団地の一画に入ってみると、出入口には黄色い未央柳(びょうやなぎ)が、別の口にはアガパンサス(紫君子蘭)が植わり、区画中央、円形の遊具場には、それを囲むようにヒメジョオン(姫女苑)がやさしく可憐にほころんで、陽だまりの草原(くさはら)には小さなテッポウユリが、きらきらと白く揺れている。各棟階段の脇にはさまざまな色の紫陽花が、ぼてりと大きな花を咲かせていた。取り巻く木々の高さ・生い茂る緑の豊かさは、さすが45年という年月の成せる業だ。10年そこらの年若いニュータウンに真似のできない点は、まさにそこである。


公園へ抜けると、サッカーボールを蹴る少年たちをよそに、ベンチに跨り、将棋を打つ老人たちの姿が見えた。気ままでのんびりとしたその光景を前に、古(いにしえ)を懐かしむ思いはいよいよ薄れ、今を愉しむ生気に私の心までもが満たされていった。年を重ねて古びるものもあれば、重ねてこそ輝くものもある。団地という名の器には、いま、豊かな緑が満ち輝いている。いい季節だと思った。

オモチャの館とその奥にあるドッグサロン

店は中央商店街の一角。ふだん車はここまで入れない

そんな、バスか車でないと行けない不便な団地の商店街に、オープンからもう6年続く、千葉県を代表するハンバーガーショップがある。店内入って手前が兄の営むハンバーガーショップ「R-S(アールズ)」、通り抜けて奥に妹のドッグサロン「R」という、島本兄妹の店だ。


兄の島本亮さんは、東京・千駄木の名店「Rainbow Kitchen」に勤めていた。元は古着屋志望。古着好きになったのは高校生の頃、リーヴァイスの66(ロクロク)とかXX(ダブルエックス)とか、ヴィンテージもののジーンズに凝り出してから。今この異常とも呼べる店内の有りようは、ひとえに島本さんの蒐集癖によるものだ。

まるでオモチャ箱のような、あるいはサーカスのような店内の全てが島本さんの私物

扉を開けた途端、途轍もなく密度の濃い店である。ことにこれまで見てきた団地の風景とのギャップが凄まじい。まるでオモチャ箱のような、あるいはサーカスのような店内の全てが、島本さんの私物。その数は優に千点を超える。


コレクションは増え続ける一方。休みのたびにどこかへ行っては仕入れてくる。代表的なところを挙げると、まずはインディアンもの。これだけで百点は下らない。レゴブロックのような玩具はドイツのプレイモービル。照明・ランプは飾ってあるだけで12点。さらにキッズの靴。グレゴリーのバッグは以前熱心に集めていたものだ。好きな人が見ればおーっ! と声を上げるようなレア物も多数。だから子供が来ると「気が気じゃない」。

良いものを粗く

レゴブロックのような玩具はドイツのプレイモービル。キッズの靴のコレクションも

この店にしてこのバーガーあり。その店内にふさわしく、ハンバーガーも「こってり」「濃厚」。見た目にも「ごっちゃり」と、わざとなのか・そうでないのか判らないような崩れ様で、そこがまた魅力だ。


パティはオージービーフ使用の120gと、国産和牛を使った170gの2種類ある。「THE・バーガー」1,250円は和牛100%パティ。さらに島本さんの薦めでチーズ120円とタルタルソース100円をトッピングした。


まず和牛パティの「肉」の味が利いている。中に肉汁を閉じ込めたふっくらとした厚み。質の良さを感じさせるその味わいを掻き消さん勢いで、上からべったり濃厚なタルタルソース。チェダーチーズもべったり。その濃厚さの逆をゆくトマトの冷たさがまた堪らなく好い。

扉を開けた途端、途轍もなく密度の濃い店

さらに上からケチャップとマスタード、レリッシュ、サウザンソース。中にガーリック醤油、グリルドオニオン。底にマヨネーズ。「どのバーガーもひとつのソースで終わらすことはない。いろんなものを入れちゃう」と島本さん。カボチャの種を戴いたこげ茶のバンズは、全国的な知名度を誇る地元・小金原の名店「Zopf(ツォップ)」の特製。


上質な和牛肉を敢えて粗く食べるバーガー。その味わい、店内のように濃密にして濃厚!


§ §


普段使わない脇道を折れると、ふと現れる古い住宅団地。近所にある筈なのに、目指して行くとなぜか辿り着けない高台のあの団地を、次また訪ねるのはいつだろう。決まっている。あのハンバーガーが食べたくなった時に決まっている。自信がある。ハンバーガーを目指してなら、迷わず辿り着ける自信がある。

< 文と写真:松原好秀 写真:坂上哲也 >

R-S [千葉・北小金]

― shop data ―
所在地: 千葉県松戸市小金原6-2-6
アクセス: 常磐自動車道・流山ICより県道5号線20分
      JR北小金駅より新京成バス「行政センター」下車
駐車場: 商店街駐車場あり
TEL: Burger 047-312-6668/Salon 047-312-6669
URL: http://rsburger.exblog.jp/
オープン: 2008年7月25日
* 営業時間 *
Burger 11:00~22:00LO
Salon 10:00~19:00
定休日: 火曜日(祝日の場合翌日休、要確認)

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