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13.08.09

TEAM APIO 4台体制紹介

今年のラリーモンゴリアにはTEAM APIOから4台のジムニーが参戦をする。同じチームとはいえレースが始まればライバル同士。今年の尾上号は打倒菅原号を果たせるのか!?

< テキスト&フォト:緒方昌子>

ゼッケン101(ドライバー:尾上 茂/ナビゲーター:石原孝仁)

左:石原孝仁 右:尾上茂

[ JB23-9型の新マシンで“打倒 菅原号” ]

今年でチーム結成3年目となった尾上茂ドライバーと石原孝仁ナビゲーター。ふたりの縁は不思議で、古いダカールラリーをさかのぼったところでつながっていた。ふたりともドライバー気質であるが、ナビに徹する石原さんと尾上さんの呼吸が、年々合ってきてチーム力が向上している。決して力まず、笑顔で“打倒 菅原号”と、闘志を燃やしている。

新・尾上号は、赤ベースのカラーリングに今年のAPIOのチームカラーのピンクを配し、より洗練感が漂うスタイルになった。APIO製品の性能と耐久性を証明することをラリー参戦のひとつの目的としているため、ロールバーなどの安全装備、サスペンションからホイールを含め、ほとんどがオリジナル開発製品で仕上げているのは歴代のラリーマシンと変わりない。マフラーは、昨年に引き続き「アピオ」×「ヨシムラ」マフラーR77Jチタンサイクロン・ラリーレイドモデルを装着。サスペンションはラリー仕様にセッティングされたROADWINラリーレイドサスペンションキットを採用。45mmUPのA2000Tiコイルスプリングに合わせたショックアブソーバーは、熱ダレを大幅に軽減する単筒式構造となっている。
また、コクピットは昨年リリースした補正操作の楽なツイントリップを含め、激しいラリー中でも操作しやすいシンプルレイアウトに仕上げている。ドライバーズシートはフルバケットシートだが、ナビゲーターのシートは動きやすいようにと、石原さんのオーダーでセミバケットシートを装着、尾上/石原チームのカラーが色濃くなってきたようだ。

昨年、JB23に「ヨシムラ」とコラボした新型チタンマフラーを装着し、タイヤサイズを185/85R16から215/75R15へサイズダウンし、ワイドトレッド化を図って加速性能と走行安定性の向上を狙ったワイド&ローボディーだった尾上号。トレッドが広がってオーバーフェンダーを装着したため、白ナンバー乗用車として出場した。乾燥地帯では狙い通りの走りを実現したが、モンゴル史上初の大雨という悪天候によってもたらされた大湿地帯では災いしてしまったという。
その体験を鑑みて、最新のJB23-9型をベースに新たに製作した新・尾上号では、タイヤサイズを再び185/85R16に戻し、黄ナンバー軽自動車、ナローボディーに立ち返った。一見シンプルに見えるが、ラリーモンゴル7年目のノウハウが凝縮されている。リベンジをかけた菅原号との対決、果たして吉となるか!?

ゼッケン100(ドライバー:菅原義正/ナビゲーター:高橋 貢)

高橋貢

[ 軽量化と作業効率アップで勝利を狙う ]

菅原義正ドライバーと高橋貢ナビゲーターは、日本レーシングマネジメントの会長と社員。尾上号と菅原号の真剣勝負をかけたラリーモンゴリアは、高橋さんにとってはかなりのプレッシャーに違いない。それに屈せず、頭脳を駆使したナビゲーターとしての仕事に徹している。

菅原号の特徴といえば、ダカールラリーのカミオン製作のノウハウをジムニーに生かした徹底した軽量化。そして、いざという時の作業効率の向上を図っているところだろう。昨年は、マシンの軽量化と共に、ふたりも自身の減量に挑戦。ストイックなまでのダイエットの成果は、ふたりで10㎏程度と、大幅減量に成功したことが功を奏したのか、昨年は尾上号との対決に勝利した。

そして、今年のマシンの特徴といえば、昨年のファスナー開閉式の幌リアドアが、激しいラリー中にファスナーが砂を噛んでしまい、開閉が困難になったため廃止し、FRPのリアドアを復活させている。さらに蛇腹のお手製シュノーケルも廃止し、フレッシュエアをたくさん取り入れるために切り取ったグリルも戻し、インタークーラーを大容量化してフロントに移設している。そのほかホーシングの補強を小さくして軽量化、菅原さんの負担を軽減すべく、ドライバーズシートをハンモック式に変更した。さらに、昨年、大雨による水や泥で苦労したことから、ホイールに泥がまとわりつかないよう超撥水コーティングの特殊加工を施すなど、ユニークなアイデアを採用している。ダカールラリーの鉄人・菅原さんが、失敗を恐れず、次々に挑戦して改善を加える姿勢は誰もが見習いたいところだ。

尾上号、菅原号、それぞれが徹底したラリーマシン製作を行なっているが、全く方向性が異なる2台。笑いながら牽制し合い、姿を見たら思い切りアクセルを踏み込んでしまう尾上さんと菅原さん、今年も最後まで気が抜けないレース展開をするに違いない。

ゼッケン105(ドライバー:橋本武志/ナビゲーター:緒方昌子)

左:橋本武志 右:緒方昌子

[ 自分らしいアレンジと新ナビで挑戦 ]

今年で3度目のラリーモンゴリア出場となる橋本武志さん。日野自動車がダカールラリーにワークス参戦した'91、'92、'97年の3度にわたってメカニックとして参戦。'97年にはアシスタンスの3号車に乗り、1、2、3フィニッシュという快挙の一端を担っている経験豊富なメカニックである。

チームアピオカラーの赤いJB23は、もともとはアピオの本格ラリーマシンで、かつてはロシアンラリー、そしてラリーモンゴリアを走ってきた尾上さんメイドのもの。2010年には桐島ローランドさんがハンドルを握り、2011年からレンタル車両として一般に貸し出したもの。それを借りて初めてラリーモンゴリアに出場したのが橋本さんだった。出来栄えに感動して、アピオに頼み込んで買い上げ、2012年もラリーモンゴリアに出場し、完走を果たしている。メカニックの腕を生かして、細々とした消耗部品や、気になる部分をチェックして手を入れ、徐々に橋本さんらしいテイストを醸すようになってきた。
 
緒方昌子ナビゲーターは、モーターライフジャーナリストとして活動しているが、ダカールラリーの'98年~2008年までの間、ヨーロッパでの車検やスペシャルステージの取材を行なっていた。そんなダカールラリーのつながりが「外側からの取材ばかりではなく、内側からラリーモンゴルをレポートしてみたら」と、橋本さんが緒方にナビゲーターのチャンスを与えてくれたのだった。ロシアンラリーでナビゲーターを経験してはいるが、それももう12年も前のことで、GPSも無縁だったので不安は尽きない。
SSERが主催するプレラリーイベントTDRで、橋本/緒方チームの練習はしたものの、モンゴルの現場で、チーム力が発揮できることを願っている。

今年の橋本号は、経年劣化もあちこちに見られ、松山での車検直前には、エンジンが黒煙を吐き、急遽エンジンを載せ換える場面もあったが、足回りや昨年ダメージを受けたフロントのホーシングを交換し、LEDの補助ライトを装着して、若返った様子。砂漠の中で夜を過ごしたくはないが、もしもの夜間走行も、明るい補助ライトのおかげで安心感がある。ただ、調子の良いリビルトエンジンに変わったものの、周辺パーツは年季が入った古いままなので、3500㎞の長丁場に悲鳴を上げないことを祈っている。

今年の目標はもちろん完走すること。だが、尾上号、菅原号の攻防が続く8ステージの間、「どこかのステージでトップでゴールできたらいいなぁ」と、橋本さんは笑った。

ゼッケン106(ドライバー:堀井義春)

堀井義春

[ 2度目の挑戦は単独参戦で! ]

堀井義春さんは、JCJ神奈川(Jimny Club of Japan )に所属するジムニー歴20年のベテラン。普段、街乗りで使っているというこのJB23のほか、JA11も所有し、新旧のジムニーライフを楽しんでいる。2007年のロシアンラリーにチームアピオの一員として参加した経験を持ち、昨年のラリーモンゴリアにこのJB23で初参戦した。

堀井号は、安全タンクを装備した本格ラリーカーとは違い、一般ユーザーがオフロードの楽しさを味わう目的で購入するアピオの新車コンプリートカーで、ロールバーやガード類など、安全装備が充実しているものの、エンジンもノーマルで駆動系も特に強化はしていない。だが、昨年は1日目でフロントホーシングを曲げてしまい、惜しくもリタイヤとなってしまった。そして今年、たった一人で再チャレンジすることになった。

無謀とも思える単独参戦だが、驚かされたのは助手席を取り外して、スペアタイヤを2本立てて収納しているところ。JB23は、もともと重心が運転席側に寄っているので、ナビゲーターが乗らない分、運転席側の比重が大きくなってしまう。そこでスペアタイヤ2本を積載することで、重量バランスを図っているのだとか。重心がフロント寄りにもなるので、より走りやすくなるのではないかと、堀井さんは言う。

また、コマ図を見て案内するナビゲーター役も自分一人で行なう二輪の場合は、コマ図を一枚一枚張り込んでロール状にしてホルダーに入れ、回転させながらコマ図をめくるのが一般的である。堀井さんは、そのコマ図を一枚ずつタブレットで撮影し、指で画面に触れてページをめくる方法を取るそうだ。スマートフォンのナビをダッシュボードに固定して利用するユーザーも少なくないので、タブレットを利用するというのも現代的な流れなのかもしれない。市販のコンプリートカーで、タブレットでコマ図をチェックして走る。この堀井号の完走を目指した単独での再挑戦、上手くゴールできれば一般ユーザーへの門戸を広くしてくれそうなので、要注目したい。

[ 番外編 ] ゼッケン107(ドライバー:蔦田賢士/ナビゲーター:蔦田歩惟)

左:蔦田歩惟 右:蔦田賢士

[ プロショップの可能性に挑戦 ]

大阪のマットサービスファクトリーから、蔦田賢士ドライバーと蔦田歩惟ナビゲーターの父娘がJB43で、ラリーモンゴリアに初参戦する。これまでも、国内のさまざまな競技に出場した経験を持つ蔦田さんが、チームアピオのラリーモンゴル対決に刺激を受け、自らマシン製作に臨んでの参戦である。

JB43ベースのマシンは、ロールバーなどの安全装備はもちろん、安全タンクを装備し、各部を強化して製作した本格ラリーマシン。試行錯誤しながら、ラリーモンゴリア専用のオリジナルサスペンションも開発するなど、これまでの経験を注ぎ込んだ渾身の1台である。

父の夢や我儘に付き合ってくれる優しい娘の歩惟さんは、もちろんラリーもナビゲーターも初体験。そのため、SSERの国内ラリーイベントに親子で参加して、実践に備えてきたそうだ。トリップメーターの補正係数の算出など、すでにベテランナビゲーターのよう。明るく朗らかに、賢士ドライバーを叱咤激励する様子を拝見していて感じたのは、ラリー中もいいムードメーカーであるに違いないということ。

数少ない若い女子の参戦は、ラリーを明るく盛り上げてくれるに違いない。チームは違えど、5台のジムニーの活躍に大いに期待したい!

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